Research Abstract |
妊婦スクリーニング 長崎で年間約15,000例の妊婦の抗体検査を1987年以来継続して行っている.把握している抗体陽性妊婦は4,000例を越え,平成6年までの抗体陽性率は4-5%だった.妊婦の抗体陽性率は,平成7年から3%へと明らかに低下した.これは,妊婦の年齢の低下ではなく,出生年が最近の方向へシフトしたためのコホート効果と考えられる.実際,1948〜1952年の出生した妊婦のキャリア率6.3%と1968〜1972年に出生した妊婦のキャリア率3.3%を比較すると明らかである.これら母親出生年は,本研究の開始時点より先行しており,当時の生活方法の変化,食餌,経済状態等の種々の要因が影響しているものと推察される. 長崎では,キャリア妊婦から出産児の約半数が追跡調査に参加した.生後18カ月以上追跡した児について,栄養方法による母子感染率は,母乳哺育期間が6カ月以上の児の15.4%に対し,人工栄養哺育児は2.9%で,80%以上の母子感染遮断効果を認めた.長崎県では,大多数のキャリア妊婦が人工栄養哺育を選択するので,十分な対照を取れない.長崎母乳哺育群の感染率は有意に高かったが,初期予想の感染率20〜30%より低くなった. 鹿児島では,7カ月未満の短期母乳哺育児の抗体陽転率が低いことを理由に,母乳を与えたい母親に対し,短期母乳哺育を第3の選択とした.今年のデータ整理によって判明した点は,6カ月未満の短期母乳哺育によって,(1)6カ月以上の長期母乳哺育に比較し,有意に感染率が低下する.しかしながら,(2)完全人工栄養と比較し,有意に感染率が上昇する.この結果は,以前の観察結果が統計処理に足る十分な例数を対照群に持たないまま,“短期母乳群は,長期母乳群に比較し感染率が低い"という観察結果を安易に“短期母乳哺育群の感染率は,人工栄養群のそれに匹敵する"と短絡的解釈をしたことに起因する.
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