Research Abstract |
1 前年度の知見に基づき,三環式ラダーオリゴシランであるドデカイソプロピルトリシクロ[4.2.0.0^<2.5>]オクタシラン(1)の不斉結晶化の再現性を調べた。1をアセトン/ジエチルエーテルの混合溶媒に溶かし,静置条件下,2週間以上かけて溶媒を蒸発させ,一個の単結晶として晶出させた。その結果,結晶化13回において,6回は左ねじれ型(M-1)分子,7回は右ねじれ型(P-1)型分子のみからなるキラル結晶が得られた。さらに,温度可変条件下でのX線結晶構造解析を行い,単結晶状態であっても120℃付近で1はラセミ化することを見いだした。なお,炭素系分子のキラル結晶において,このようなラセミ化の例は知られていない。2 三環式ラダーポリシランの光反応を補足剤存在下で行い,補足生成物の構造から光分解過程を考察した。anti-1,2,5,6-テトラ-t-ブチル-3,3,4,4,7,7,8,8-オクタイソプロピルトリシクロ[4.2.0.0^<2.5>]オクタシランのアントラセン存在下での光分解では,シクロテトラシレンの1,4-付加体のみが生成した。この特異な位置選択性は,t-ブチル基の大きな立体効果のため9,10-位への付加が起こらないことを示す極めて希な例となる。3 オクタイソプロピルシクロテトラシランの開環で得られる1,4-ジカリウム体を前駆体とし,ペルイソプロピルシクロペンタシランおよび直鎖状オリゴシランを合成した。なお,前者は通常の合成法(ジクロロジイソプロピルシランの還元的縮合)では合成できない。また,後者においては,ケイ素-ケイ素骨格がall-trans構造を有することが判明した。この結果は,イソプロピル基のような嵩高い置換基が,オリゴシランのケイ素-ケイ素骨格の立体構造規制に有効であることを示唆する。4 セスキカルコゲニド(Thex_2M_2E_2)_2E_2(M=Si,Ge:E=S,Se)の骨格異性化を速度論的見地から調べた。その結果,下式の異性化は可逆的であり,とくに,M=Si,E=Seでは,アダマンタン型構造よりもダブルデッカー型構造の方が熱力学的に安定であるとの知見を得た。この結果は,両構造のX線結晶構造解析に基づく環歪みの見積もりによっては説明できない。今後,その理由を解明する必要がある。
|