1998 Fiscal Year Annual Research Report
第3世代の化学トレーサーを用いた高緯度海洋における水塊混合の履歴の解析
Project/Area Number |
09440163
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Research Institution | HOKKAIDO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
中塚 武 北海道大学, 低温科学研究所, 助教授 (60242880)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
深町 康 北海道大学, 低温科学研究所, 助手 (20250508)
大島 慶一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 助教授 (30185251)
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Keywords | 化学トレーサー / オホーツク海 / 栄養塩 |
Research Abstract |
今年度は昨年度に引き続き、オホーツク海において3つの観測航海に参加し、栄養塩、溶存酸素の濃度・同位体比の測定のためのサンプル、データを採取した。特に7-8月のロシア極東水文気象研究所のクロモフ号による航海には、昨年度購入した栄養塩自動分析計(AACS-H)を搭乗させ、サハリン東岸を中心にオホーツク海南部全域にわたって、約60点のCTD/RMS観測点から、計約1000サンプル、約4000のNO_3^-+NO_2^-,NO_2^-,P_4^<3->,SiO_2濃度のデータを得た。スタンダードや分析条件(室温変動など)について、慎重なキャリブレーションを行った結果、栄養塩データからオホーツク海の水塊形成を明らかにするための全く新しいタイプの化学トレーサー導き出すことに成功した。具体的にはNO_3^-とPO_4^<3->の濃度から導かれるN^*=([NO_3]-16・[PO_43-]+2.9)・0.87である。この値は、海水中における通常の有機物の生産・分解過程が、Δ[NO_3^-]:Δ[PO_4]=16:1の関係で栄養塩濃度の変化を引き起こすことに注目したもので、通常は海中では変化せず一部の海域や海底泥中でのみおこる脱窒や窒素固定によってそれそれ減少・増加する、「準保存量」である。これは通常の保存的水塊トレーサー(T,S,CFC,^<14>C等々)と異なり、海水面でリセットされないという特長を持つ。このN^*の分布をオホーツク海南部全体で詳細に求めたところ、海底・大陸斜面付近に底泥での脱窒によると見られる極小値を観測しただけでなく、中層(水深200-400m付近のいわゆる低渦位層)に沿って、大陸斜面上部からつながる顕著な極小値の貫入が認められた。これは北太平洋中層水の起源となるオホーツク海中層水が、「オホーツク海北西部の大陸棚(=低N^*域)で形成されて水平流出した水塊であること」の決定的な証明になるだけでなく、一般に沿岸起源の水塊がどのように外洋へ移流・拡散しているかを追跡するための全く新しい保存成分が見つかったことを意味する。
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