1998 Fiscal Year Annual Research Report
大乗『涅槃経』を中心とした仏教の平等思想と差別思想の起源と変遷の研究
Project/Area Number |
09610018
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤井 教公 北海道大学, 文学部, 教授 (70238525)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
沼田 一郎 北海道大学, 文学部, 助手 (20261258)
吉水 清孝 北海道大学, 文学部, 助教授 (20271835)
細田 典明 北海道大学, 文学部, 助教授 (00181503)
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Keywords | 一乗 / 一闡堤 / 五性格別 / 智〓 / 仏種 / 法華経 / 涅槃経 / 道生 |
Research Abstract |
本年度において、研究代表者は東アジア仏教を中心に仏教の平等思想としての一乗思想を取り上げ、『浬槃経』の仏性如来蔵思想が中国仏教者にどのような影響を与えているかという問題の解明に当たった。具体的には、未だ仏性を説いていない『法華経』について、中国魏晋南北朝期の代表的仏教者である道生、光宅寺法雲と隋の天台智額らの解釈を知るために、『妙法華』中の「仏種」の語を取り上げて彼らの解釈を検討した。「仏種」の語は本来「仏種姓」と同義で、仏の血統、系譜などの意を表す語である。しかし、この語は『法華経』の梵本やチベット訳、竺法護の漢訳テキストには見られず、羅什訳のみに見られるものであって、その語の解釈は種々に異なっている。上記の仏教者たちの解釈は、法雲以外はいずれも仏性思想によってこの語を解し、特に智頻に至って初めてこの「仏種」の「種」を植物の種子と解釈して、仏性たる種子を衆生の心に植え付けるという下種論を創始しているという検討結果を得た。この下種論は日本天台を経て、日蓮によって批判的に取り込まれ、日蓮法華仏教において極めて重要な位置を占めているものであって、この天台の解釈の影響は実に大きい。 同じく『浬槃経』に端を発するicchantika(一闡提)については、ごく最近『浬槃経』研究の新しい成果が出され(下田正弘『浬槃経の研究』)、その中で一闡提の実体について従来の「利養貪着者」という望月説が再び支持された。しかし、その説には諦法者としての一闡提という側面が欠落しており、賛同しがたい。その説に再検討を加えるために現在、法顕訳六巻本『浬槃経』の国訳・訳注を継続中である。
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[Publications] 藤井教公: "「羅什訳の問題点-「仏種」の語の解釈をめぐって-」" 『印度哲学仏教学』. 第13号. 208-235 (1998)
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[Publications] 藤井教公: "「書評:下田正弘著『涅槃経の研究』」" 『宗教研究』. 72-1. 183-189 (1998)
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[Publications] 藤井教公: "「天文智〓における四悉檀の意義」" 『印度学仏教研究』. 47-2(印刷中). (1998)
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[Publications] 細田典明: "「ヴィジュニャーナビクシュ著『ブリハッド・アラーニヤカ・アローカ』-『ブリハッド・アーラニヤカ・ウバニシャッド』注の新資料-」" 『印度哲学仏教学』. 第13号. 96-108 (1998)
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[Publications] 吉水清孝: "「クマーリラにおける祭式構造論の転換」" 『南アジア研究』. 第10号. 56-73 (1998)
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[Publications] 吉水清孝: "「クマーリラが批判するapurva説について」" 『印度哲学仏教学』. 第13号. (1)-(15) (1998)
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[Publications] :沼田一郎: "「Manusmrti 7,114」(印刷中)" 『印度学仏教学研究』. 47-2. (1999)