1998 Fiscal Year Annual Research Report
近代中国における子ども観の社会史的考察:子ども・家族・社会
Project/Area Number |
09610044
|
Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
湯山 トミ子 成蹊大学, 法学部, 教授 (60230629)
|
Keywords | 近現代中国 / 子ども観 / 子ども / 児童 / 孤児 / 家族 / 家庭 / 女性 |
Research Abstract |
本研究の目的は、近代中国における子ども観の形成過程を歴史的、社会的に分析し、当時の子ども観の諸相を明らかにし、それを通して、近代中国における人間の在り方、家族、社会の特質などを逆照射することにある。研究対象期である清末民初より1940年代までのうち、平成10年度は主に1930年代の子どもの状況について考察、分析した。1930年代は、清末以来、中国の伝統的な子ども観に影響を与えてきた西欧近代の子ども観が中国固有の歴史的、社会的状況のなかで独自の展開をとげ、民国初期の啓蒙的な段階より一段深化する展開、発展期にあたる。一方、新しい子ども観の潮流に対して、伝統的な子ども観もまた独自の在り方を目指して再生され、復活してくる。これら二つの流れに加え、重要な分析項目となるのが子どもをめぐる社会環境の変化である。とくに、1937年以降は、戦乱のなかで増大する家を失う子どもたちの状況、比較的小康状態にあった都市中産階層の子どもたちの生活状況の逼迫など、文化、教育政策上想定される子どもと現実の子ども状況との乖離が激化し、顕在化してくる。本年度の研究では、こうした時代的特徴を踏まえ、従来主要な研究対象であった家族に属する子どものほかに、貧困と戦乱のなかで、家族を失い、流浪する「家を失う子ども」の存在についての分析も試みた。具体的には、都市小家庭の子どもと生存環境自体が破綻し、流浪する子ども、貧困にあえぐ子ども状況との比較、深刻化する子ども状況に対して大人社会がとった対策である孤児院、戦時保育の概況について基本考察を行った。平成11年度は、大人社会の対策に加え、自らの環境に順じて、あるいは抗して、自立的に生き抜く子どもの存在を考察に含める予定である。それにより、中国社会に生きる子どもの状況を「家族の子ども」と「社会の子ども」、「育ちゆく子ども」と「育てられる子ども」などの視点から立体的に把握しできるものと考える。
|