1999 Fiscal Year Annual Research Report
古代・中世ケルト美術における「文様」と「神像」の神話的要素
Project/Area Number |
09610064
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
松尾 真由美 (鶴岡 真由美) 立命館大学, 文学部, 教授 (80245000)
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Keywords | 文様 / 抽象 / 渦巻文様 / ケルト文化 / ガロ=ローマ美術 / ケルト=イベリア / ケルト修道院文化 / ハルシュタット |
Research Abstract |
古代ケルト美術の特徴とされる「装飾文様」表現は、古典古代文化圏の具象表現と対極をなしている。本研究は、この「装飾性」と「抽象性」を打ち出した様式を、ヨーロッパ大陸のガリア・イベリア、および島嶼のプリタニア・アイルランドの古代ケルト美術と、のちの中世に島嶼の修道院文化のなかで発展した中世ケルト美術の様式的変遷・その相互の影響関係や継承性を分析することにより、非具象的・文様的形態に表象されたケルト文化の観念を考察するものである。 まず研究ではその準備段階から「大陸のケルト」と「島のケルト」美術の文様の形態を写真・模写などによってその細部の調査・収集をおこない、従来対象化されてこなかった形態の分析と比較を行った。大陸では、ガロ=ローマビブラクト(フランス)、ホッホドルフ、ホイネブルク(ドイツ)、ハルシュタット(オーストリア)、ラ・テーヌ(スイス)等で行われた。またケルト=イベリア美術の中心をなすヌマンティア(スペイン)出土の土器装飾および、ケルト金工美術さ最も重要な「トルク(首輸)」の様式への発展がみられるイベリアの鉄器時代の遺物の調査を行った。島のケルト美術では古代から中世まで行われたスコットランドのピクトの石彫や、アイルランドの修道院で制作された装飾写本の文様について調査をした。 以上の資料から明らかになるのは、ケルト文化が第1鉄器時代からローマによる征服期を経て、中世の島のケルト美術にまで断絶することなく「継承」された金工美術という媒体において表現を洗練させていった「渦巻文様」の応用の拡大である。また古典古代のケルトに関する文献に照らして、この渦巻文様は、存在の「生成・変化」そのものを表象した美術である可能性の高いことも指摘できる。それは大陸ケルトのガリアやイベリアにおいてローマの具象的神像に接触(ガロ=ローマ美術など)しながらも、依然として抽象的「文様」表現が継続し、それが島嶼の中世ケルト美術まで継承されていることが確認されるからである。これらの成果はたとえば1998年のNHK「人間大学」の講義放送や1999年の『ケルトの歴史----文化・美術・神話をよむ』(河出書房新社)などの論文によってより豊富な写真資料とともに刊行された。
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[Publications] 鶴岡真弓: "シングとアイルランド文芸復興"鉄幹と晶子. 第4号. 112-119 (1998)
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[Publications] 鶴岡真弓: "ジャック・B・イェイツとケルト文芸復興"(日本ケルト学者会議)ケルティック・フォーラム. 第2号. 33-40 (1997)
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[Publications] 鶴岡真弓: "ヨーロッパの非文字伝統-中世ケルト装飾文字の批判性"(立命館大学)言語文化研究所紀要. 9巻5・6合併号. 309-316 (1998)
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[Publications] 鶴岡真弓: "ケルト動物表現の恐怖と笑い"美術手帖. 7月号. 21-25 (1998)
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[Publications] 鶴岡真弓: "美術史とその言説"國学院雑誌. 100巻第1号. 15-54 (1999)
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[Publications] 鶴岡真弓: "オガム文字の力"言語. 3月. 2-3 (1999)
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[Publications] 鶴岡真弓・中川新一・月川和雄(共著): "ケルトの宗教 ドルイディズム"岩波書店. 377 (1997)
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[Publications] 鶴岡真弓(単著): "装飾美術・奇想のヨーロッパ-ケルトから日本へ"NHK出版. 186 (1998)
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[Publications] 鶴岡真弓・松村一男(共著): "ケルトの歴史-文化・美術・神話をよむ"河出書房新社. 143 (1999)