1998 Fiscal Year Annual Research Report
健忘症患者を対象とした記憶リハビリテーションのための認知神経心理学的学習モデル
Project/Area Number |
09610075
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小松 伸一 信州大学, 教育学部, 助教授 (50178357)
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Keywords | 記憶リハビリテーション / 潜在記憶 / 潜在学習 / 誤り排除学習 / 手がかり消失法 / 努力喚起学習 |
Research Abstract |
本研究は、顕在記憶遂行において重篤な障害を呈する健忘症患者を対象として、障害が及んではいない潜在記憶に焦点を当てたリハビリテーション・プログラムを開発し、そのプログラムの効果を実証的に検討することを目的とした。今年度は、本研究で提案する学習モデルの理論的背景を展望論文として公刊した。さらに、初年度(平成9年度)の成果を踏まえ、誤り喚起-誤り排除の次元と、努力喚起-努力排除の次元が、コルサコフ症候群患者の記憶リハビリテーションに及ぼす効果を実証的に検討した。初年度に行った実験1のデータを詳細に分析した結果、努力要因の効果が認められなかったのは、手がかり消失法による訓練手続きに問題があると解釈した。つまり、誤り排除と仮定されていた手がかり消失法による訓練の中で、実際には誤反応が生起していたのである。そこで、誤反応をより発生させにくくした改訂版手がかり消失法を考案し、この改訂版手続きを用いてコルサコフ患者を対象に顔-名前連合学習を試みた。この結果、改訂版手がかり消失法は、誤反応の生起を皆無にすることはできなかったものの、相対的誤反応数を顕著に低減させた。学習効果の指標である再生成績を分析したところ、訓練直後の検査だけでなく、訓練後数日の時間間隔を置いた遅延検査においても、正答率の上昇を確認した。改訂版手がかり消失法を用いた訓練によって、重度の前向性健忘を示すコルサコフ患者でも、人名を意味的知識の一部として獲得できることを明らかにした。これらの知見を総括し、実証的研究の成果を論文として投稿する予定である。
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[Publications] 小松伸一: "記憶研究の現状と今後" 教育心理学年報. 38. 印刷中 (1999)
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[Publications] 小松伸一: "エピソード記憶と意味記憶" 失語症研究. 18. 182-188 (1998)
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[Publications] 小松伸一: "認知心理学から見た学習障害:作業記憶モデルを中心として" 信州LD研究. 2. 67-84 (1998)
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[Publications] 小松伸一: "潜在的過程の探求-水源・石田論文へのコメント-" 心理学評論. 41. 462-465 (1998)