Research Abstract |
1.本研究は,聴覚障害児の手話習得の過程を明らかにし,それを基に聴覚障害児が手話を習得するための援助プログラムの作成を行うことを目的としている。そのために,まず,両親がろうの聴覚障害幼児の手話コミュニケーションの発達過程を,語用論的な観点から詳細に観察・記録を行った。具体的には,両親がろうの1名の聴覚障害幼児の手話によるコミュニケーションを家庭内での自由遊び場面でほぼ1か月に1回(2時間)程度,縦断的に観察して,社会的な環境における手話を含めたコミュニケーションの習得過程の様相について資料を得た。 2.次に,得たビデオ資料から,手話によるコミュニケーション場面を抽出し,特に,母子相互交渉に着目し,手話による働きかけの形式,対話の時間的な経過,周りにある事物(絵本や遊具)の利用,母親によるコミュニケーション・ストラテジーなど,手話による母子コミュニケーションの発達的な特徴を明らかにすることを試みた。母親は,自分と対象物(例えば,絵本)の両者への幼児による注意を持続させるために,同時的,継起的な方略をとっていた。前者では,手話空間を対象物付近に移動させたり,子どもの手話空間内で手話を産出していた。これにより母親の産出した手話と指示対象に同時に注意を向けることを可能にしていた。後者に関しては,母親は,子どもの注意の配分をコントロールし,自身に向けられたときのみ手話を産出していた。また,これには子ども側の主体的な注意の転換が関与していた。 3.これらの結果をもとに,手話の習得が十分でなく,また,聴覚障害児との経験も浅い健聴の母親が,うまく聴覚障害児とのコミュニケーションを進めるための年齢段階に応じた視覚的(ビデオ)教材の作成を試みた。次年度では,これを何組かの健聴の両親と聴覚障害幼児に指導場面あるいは家庭場面で提供し,教材の評価・改善を行う予定である。
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