1997 Fiscal Year Annual Research Report
若年層の不安定職業ならびに自発的失業についての社会学的研究
Project/Area Number |
09610165
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
水島 和則 東北大学, 教育学部, 助手 (00219627)
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Keywords | 高卒労働市場 / 離職率 / 高校内下位集団 / 中途就職者 / 非正規就業者 |
Research Abstract |
本研究は、日本労働研究機構が1985年から約十年間にわたって実施した高卒者の追跡調査研究を足がかりの一つとしている。この調査が明らかにしたさまざまな事実のなかでも、とりわけ四つの知見がここで問題となっている。第一に、既存統計が学校卒業時点での就職状況のみしか把握していないために見落とされてきた事実として、高卒後すぐに「新規学卒就職」者として職業に参入するのではなく、卒業後五月以降に就職した「中途就業者」が高卒就職者の一割程度にのぼり、とりわけ普通科の卒業生では四分の一がそうした中途就業者である。第二に、新規学卒就職者と中途就職者とでは職業チャンスがかなりの程度異なっており、中途就職者の三分の一は初期がアルバイトであり、卒業後六年までに半数以上が非正規就業を経験している。さらに、商業科男子では初職から非正規の仕事につく者、新規学卒者として就職していない者が全体の三分の一に及ぶ。最後にもっとも重要な事実として、以上のような職業チャンスの格差にもかかわらず、仕事への満足度については、むしろ中途就職者や非正規就業層の方が高い。 以上の知見とはレベルが異なるが、長期の趨勢として、石油ショック期に有効求人倍率が低下した際に高卒就職者の早期離職傾向が急増し、反対にバブルの好況期に高卒求人倍率が急上昇すると逆に離職経験者率が低下している事実が示すように、離転職は初期の企業規模に反比例して推移している。つまり高卒者の不安定就業には、労働市場の階層性と深く結びついている。 今回の卒業生調査からも以上の知見を裏づける結果が得られたが、にもかかわらずいくつかの点では、労働研究機構の分析ではなお不十分に思われる点が明らかになった。まず第一に、高卒者の労働市場が全国的なレベルではなく、地域間格差が大きいことが裏づけられた。まず第二に、普通高校卒業者、とりわけ男子における中途就業者率の高さを進路指導の不適切性や、受験からのドロップ・アウトという角度からとらえるのはじゅうぶんではない。つまり「就業への参入」というプロセスのみならず、高等学校三年間での生活様式や内面化する「文化」が、その後の職業オリエンテーションに影響していることが明らかになった。 具体的には、武内清1992らの先行研究を参考にしながら、高校生の下位グループを三つに類型化して、それぞれのグループで職業オリエンテーションがどのように異なるのかを調べた。ひとつのグループは、高卒後就職を予定していながら、なお高等学校在籍中に学校での成績順位を上げることに関心を有しているグループである。それは高校と企業との実績関係において、学校での推薦順位と成績順位とが連動していることによる。もうひとつのグループは、成績順位をめぐる競争からは撤退しているが、主に課外活動(いわゆる部活動)によって高等学校に深くコミットするグループである。三番目が、学校へのコミットが浅く、アルバイトが生活時間に占める割合の高いグループである。(現在、高校生の平均して三分の一が恒常的にアルバイトをしている)。その結果、高校時代アルバイトに従事していた者は卒業後も非正規の仕事につく割合が高く、にもかかわらず仕事への満足度が高いことが明らかになった。 研究課題全体との関連でいえば、初年度は専門学校進学者のその後の経歴を追えなかったために、専門学校の拡大が高卒労働市場にどのような変容をもたらしているのかが依然じゅうぶんには理解できていない。現在、就職情報誌を発行すると共に購読者層にアンケート調査を実施しているA社の協力を得て、二〇代のアルバイト層の属性を分析する準備を進めている。
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