古代都城廃絶後の変遷過程

1998 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 09610355
• Research Institution: Nara National Research Institute for Cultural Properties
• Principal Investigator: 舘野 和己 奈良国立文化財研究所, 平城宮跡発掘調査部, 史料調査室長 (70171725)
• Keywords: 都城遺跡 / 平城京 / 条坊制 / 条坊坪付 / 遷都 / 北浦定政

Research Abstract

昨年度に引き続き『大日本史料』などの文献史料から、平城京・平安京をはじめとする都城関係史料を検索し、そのうち平城京については前年から作成中の条坊ごとに整理した表を補充した。また平城京跡については、発掘調査によって検出された道路や溝などの条坊関係遺構の整理に着手した。さらに幕末における平城京の条坊制の先駆的研究である北浦定政の「平城宮大内裏跡坪割之図」について、北浦家に残されたそれの草稿本と、近時その存在が明らかになった小原文庫所蔵の同図などとの比較検討を行った。
こうした史料調査と並行して、都城遺跡の参考になる、国衙・郡家等の古代地方官面遺跡の現地調査として、阿波国府推定地の徳島市観音寺遺跡、備中国分寺・国分尼寺跡・鬼ノ城遺跡(岡山県総社市)、大宰府跡(太宰府市)、肥前国庁跡(佐賀県大和町)、鞠智城跡(熊本県菊鹿町)などに赴き、遺跡と出土木簡などを調査した。
今年度判明した点をいくつか述べる。1平城宮内に廃都後に条坊制が施行された可能性については、昨年も「法華寺田畠本券」から指摘したが、現在宮内に「八ノ坪」という小字名があることがわかった。その位置は宮外の条坊を宮内に及ぼしていくと、ちょうど右京二条一坊八坪にあたる。したがって「八ノ坪」はまさに条坊制に基づく小字名であり、室内にもその廃絶後に条坊制が施行されたと考えてよいとみられる。
2平城京の条坊復元の重要な資料である北浦家の「平城宮大内裏跡坪割之図」と小原文庫本とを比較検討した結果、後者は同図の浄書本であること、さらに同図の省略本である古書保存会復刻の図と小原本を比べると、川の流路に違いがあるなどの相違点が多く、これまで複本は作成されなかったとみられてきたが、時間を置いて内容に部分的改変を加えた浄書本が北浦定政によって複数作成された可能性があることが判明した。