1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610386
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
橋場 弦 大阪外国語大学, 外国語学部, 助教授 (10212135)
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Keywords | ギリシア / ローマ / 民主政 / 贈収賄 / アテナイ / ペリクレス / アカウンタビリティ / 直接民主主義 |
Research Abstract |
今年度においては,古代ギリシアおよびローマにおける贈収賄に関わる基礎的な事実全体の把握に努め,これを整理した。そのさいに『パウリ・ヴィッソワ古代学事典』による史料の検索はおおいに研究作業に寄与するものであった。その作業を通して,東地中海世界,とくにポリス社会が一定の役割を果たしたエ-ゲ海周辺のギリシア人社会において,伝統的な互酬性(reciprocity)の概念が,紀元前8世紀ないし7世紀においてすでに彼らの贈答文化の中にはっきりした位置を占めていたことが,ホメロスやヘシオドスなどの古典史料を解読する中から明らかになった。そして,その贈答文化が,アテナイに民主政が成立・確立されて行く紀元前5世紀後半から,しだいに別の価値観によって挑戦を受けて行く過程を,おもに公共事業における会計報告碑文の分析を通して明らかにした。それにより,賄賂が民主政の存立にとって阻害要因になるということに気がつき,それらの行為に明確に犯罪としての価値づけを行い,これに法的な対抗措置を設けようと意図した最初の政治家とは,アテナイ民主政における最大の指導者ペリクレス(前495頃-429年)ではなかったか,という仮説を提起するに至った。それにより,ペリクレスが個人的に計数の才能に恵まれていたこと,そして彼個人の家計についてみずからが綿密な管理を行なっていたという事実と,役人の会計検査制度が彼の活躍した時代に発展を遂げたこととの間に,何らかの関係が発見されるのではないかという暫定的結論に至った。以上が新たに得られた知見であり,今後はこの仮説にしたがって実証を積み重ね,具体的な贈収賄対抗制度成立のプロセスを克明に分析する予定である。
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