1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610386
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Research Institution | Osaka University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
橋場 弦 大阪外国語大学, 外国語学部, 助教授 (10212135)
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Keywords | 賄賂 / 民主政 / ギリシア / アテナイ / 贈与 / 互酬 / 政治 / 古代 |
Research Abstract |
本年度においては、前年度の基礎的な研究の成果を基盤として、古典期アテナイ民主政において贈収賄対抗諸制度の背景には、賄賂と互酬制に対する社会的価値規範のどのような変化が観察しうるのか、というテーマについてより実証的・個別具体的に史料を検証する作業を進めた。そのさいにはギリシア語による古典史料を収集することが必須の条件であり、したがって、Loeb Classical Library双書による古典史料を購入したことにより、研究作業は一挙に進展した。また『パウリ・ヴィッソワ古代学事典』も同様に有益であった。また、それ以外の関連史料および文献を検索し調査するために、国内の他大学への資料収集のための出張を何度か行った。これらの調査研究により、本年度は前6供紀から以降、前5世紀末にいたるまでのアテナイにおける、互酬および賄賂にたいするすべての言説を、古典史料および碑文史料を駆使することにより網羅的に集め、それらを分析することができた。その結果あきらかになったことは、(1)前5世紀初頭までの賄賂に対する非難の言説は、一見賄賂行為そのものを悪として非難攻撃しているようにみえながら、実は非難者自身が伝統的な贈与と互酬の価値観の中に身をおいたままでなされたものであり、一種の私的な怨恨に基づくものに過ぎないということ。(2)賄賂に対する批判的言説が公的な動機づけに基づくようになるのは、アテナイ市民がようやくペルシア戦争(前490-79年)を経たのちのことであり、ポリス共同体の外からもたらされて、ポリス市民団の純粋性を脅かすと思われる贈与にこそ、社会的に非難されるべき悪が見いだされるという新しい価値観がそれ以降誕生し、一連の贈収賄対抗諸制度の成立の要因となりえたのではないかということ。以上の結論に達したため、その研究成果を史学会大会第96回大会(東京大学11月15日・西洋史部会)において発表することができた。
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Research Products
(1 results)