1999 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610386
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Research Institution | Osaka University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
橋場 弦 大阪外国語大学, 外国語学部, 助教授 (10212135)
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Keywords | ギリシア / アテナイ / 民主政 / 賄賂 / 贈与 / 古代 / 贈収賄 / 民主主義 |
Research Abstract |
本年度は、前年度までの実証研究作業とデータ収集による基礎的研究の蓄積を受けて、これまでの研究全体を総合し、最終的結論を導く作業を行った。そのために必要な研究文献・一次史料を購入し、また国内の他大学への資料収集のために出張をおこなった。その結果として最終的に明らかになった結論としては、(l)ペルシア戦争(前490-79年)を契機として異民族からの収賄に対する警戒心を生み出したアテナイ人は、さらに「敵国に買収されて将軍(ストラテゴイ)が軍を不当に引き上げる」という賄賂概念を育てるにいたる。この場合の敵国とは異民族である場合もあるが、同じポリス世界の敵国である場合もある。(2)前5世紀半ばすぎになると、本来身内であるはずの同盟諸国市民に対して向けられる警戒心があらたな賄賂概念を生み出すことになった。すなわち、デロス同盟諸国の市民が、賄賂を用いて同盟貢租にかんする不正を働くのではないか、とする観念である。これは、いわゆるデマゴーグと呼ばれる政治家たちにたいする非難とともに、このんで喜劇などで用いられる政治攻撃の材料を提供した。(3)さらに新たな賄略概念は、前5世紀後半に市民権授与をめぐる政治疑惑事件とともに発生する。すなわち、外国人がアテナイ市民権を獲得するために賄賂を使ったのではないかという疑念がアテナイ市民の意識の中に生じ、それが一連の民会決議や法律の制定に結び付いたのではないかと推測されるいくつかの証拠が見られるのである。そして、このようないわば内なる他者に対する警戒心が、賄賂全般に対する警戒心につながり、弾劾裁判(エイサンゲリア)によって民会での発言者の収賄を摘発するという法制的対抗措置を結果的に生み出したのではないか、という仮説に到達したのである。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 橋場 弦: "説得と民主政-モノからコトバへ-"西洋古典学研究. 47. 122-132 (1999)
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[Publications] Hashiba, Yuzuru: "Dokimasia Reconsidered: What Was Its Purpose?"KODAI: Journal of Ancient History. 8/9. 1-10 (1999)