1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610394
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
見市 雅俊 中央大学, 文学部, 教授 (30027560)
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Keywords | 開発原病 / 黒死病 / ペスト / マラリア |
Research Abstract |
今年度は、おもに二つの作業を進めた。 1 14世紀の「黒死病」以降、からヨーロッパおよひ中東を断続的に席巻したペストは17世紀中頃、まず西ヨーロッパ、ついで東ヨーロッパ、最後に19世紀中頃に中東の地から姿を消す。その医学的理由は今日もなおはっきりしていない。今年度の研究ではペストの消滅が西ヨーロッパ社会にあたえた影響に注目し、「俗世」中心的な考え方の登場、死生観の変容、さらに、18世紀になってもなおペストの流行をみた中東にたいする身体レベルでの優位感の誕生-「オリエンタリズム」などについて分析をすすめた。その成果は来年度、まとめて発表する予定である。 2 昨年度発表した論文を「開発原病の世界史」 (『岩波講座世界歴史』17巻)で提起した開発原病の大きな枠組みを具体的な歴史の事例に即して展開することを今年度は模索し、そのけっか、18世紀北アメリカの大西洋沿岸における米作に注目した。その米作の担い手となったのはアフリカ西海岸出身の黒人奴隷であった。彼らは故国の高度の米作技術をアメリカに持ちこんだ。それと同時にマラリアの病原菌をも持ちこんだのである。米作のための低湿地帯の干拓はマラリア菌を媒介する蚊にとっても格好の環境をつくったのであった。このように、この事例は経済開発と病気の増殖という開発原病の特徴がよくみてとれる事例なのである。来年度中に成果をまとめ、病気史にかんする共同論文集にのせる予定である。
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