1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610490
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
藤原 裕子 (萩原 裕子) 東京都立大学, 人文学部, 助教授 (20172835)
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Keywords | 派生接辞 / メンタル・レキシユン / デフォールト規則 / ブローカ領域の役割 |
Research Abstract |
本研究は、生成文法理論で仮定されている語や文の構造に、意味がどのようにかかわっているのかについて、言語学的失語症学の立場から実験研究を行うことを目的とした。 本年度は、日本語の二種類の形容詞派生名詞化接辞-ミと-サをもちいて、それらの処理方式の異同を調べるために、健常者およびさまざまなタイプの失語症患者を対象に実験をおこなった。結果は、予測通り病変部位の違いと接辞の違いが乖離現象を示した。-サの付加にはブローカ領域が、-ミの付加にはそれ以外の領域が関与している可能性が示唆された。言い換えれば、規則にもとづいた言語演算処理には前頭葉ブローカ野およびその周辺の皮質・皮質下が関与し、連想記憶にもとづいたアナロジーによる言語処理には、左中・下側頭回や紡錘状回、舌状回、海馬傍回、海馬などをふくむ左側頭葉の広範囲の領域が関与しているといえよう。次に、言語演算処理の型とその脳内機構についての仮説を提案した。言語演算処理には、少なくとも2つの質的に異なった型が存在している。一つめの「規則の適用による言語演算処理」には、言語単位の大きさに関わらず、生産性が高く、規則的で、意味の透明な言語処理が関与している。つまり、音素、形態素、単語、句、文のいかなる言語単位でも、記号の表示とその変換にかんする操作がかかわる処理が行われる。二つ目の「パターン連想処理」は、直列的文法演算処理とは異なり、並列的な多重結合ネットワークによる処理方式で、連想記憶や、それに基づいたアナロジーとして機能する。言語においては、おもに音の類似性のパターンが関わるが、意味の類似性も関与している可能性がある。この処理方式は、左半球側頭葉の広範囲で行われている。
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[Publications] 萩原裕子: "言語演算処理の型とその脳内機構仮説" 電子情報通信学会技術研究報告. 97・376. 1-8 (1997)
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[Publications] 萩原裕子: "言語理論からみた失語症-心的演算処理の型をめぐって-" 最新脳と神経科学シリーズ『失語症からみたことばの神経科学』. 7. 174-182 (1997)
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[Publications] 萩原裕子: "文法の脳機構" BRAIN MEDICAL (ブレイン・メディカル). 34. (1998)
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[Publications] Hagiwara,H.,Ito,T.Sugioka,Y.Kawamura,M.,Shiota,J.: "Neurolinguistic evidence for rule-based nominal suffixation" Language. (発表予定). (1998)
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[Publications] 萩原裕子: "脳にいどむ言語学" 岩波書店(岩波科学ライブラリー59), 128 (1998)