1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610494
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Research Institution | University of the Sacred Heart |
Principal Investigator |
道家 弘一郎 聖心女子大学, 文学部, 教授 (40052112)
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Keywords | ヘルメス主義 / カバラ主義 / ラムス論理学 / artificial vs inartificial / 二分法 / 無からの創造 / 神からの創造 / 古い神学 |
Research Abstract |
ペトルス・ラムスは、イギリス・ルネッサンスの三人の詩人に影響を与えたといわれる。フィリップ・シドニー、クリストファー・マーロウ、ジョン・ミルトンである。シドニーはラムスに直接会ったと考えられるが、その著作中にラムスの言及はない。ラムス思想のメッセイジを的確直截に把握したのはマーロウであった。しかし、それは思想の明示的側面に留まり、ラムスの思想がマーロウの感性にまで浸透していたとは言い難い。ミルトンに至って初めて、ラムスの、artificial argumentsとinartificial argumentsの区別、および二分法的思考(dichotomy)がその詩作の発想過程にまで浸透したといえる。それは、シドニーに見られる、ヘルメス主義やカバラ主義と結びついた「古い神学」、古い「記憶法」からの決別であった。 では、ミルトンがヘルメス主義やカバラ主義と全く無縁であったかというと、天地創造の教義については、「無から」ではなく、「神から」の創造というカバラ主義と同じ思想を懐いている。ミルトンはルネッサンス期特有の「源泉へ(adfontes)」溯ろうとする情熱の促すまま、紀元二世紀に成立した「無からの創造」に満足せず、旧約聖書原典の言語学的研究から「神からの創造」という教義に到達する。ヘルメス主義やカバラ主義が、西洋の正統説の背後に伏流水のように途切れることなく、つづいているのである。
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[Publications] 道家弘一郎: "ミルトンとラムス論理学" 聖心女子大学論叢. 82. 31-58 (1994)
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[Publications] 道家弘一郎: "或る論理学者の死ーー『パリの大虐殺』" 聖心女子大学論叢. 84. 77-97 (1995)
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[Publications] 道家弘一郎: "「臍を見るな」ーーゲーテ・カーライル・内村鑑三ーー" 聖心女子大学キリスト教文化研究所「宗教と文化」. 18. 105-118 (1997)
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[Publications] 道家弘一郎: "ミルトンと天地創造" 聖心女子大学論叢. 92. 37-54 (1999)
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[Publications] 道家弘一郎: "「能」と出会う" 聖心女子大学キリスト教文化研究所「宗教と文化」. 19. 87-100 (1999)
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[Publications] 道家弘一郎: "平井正穂著『イギリス文学論集』 (書評)" 『英語青年』. 144・12. 773-774,(45)-(46) (1999)
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[Publications] 道家弘一郎: "炎の痕跡" 沖積舎, 196 (1996)