1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610519
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
恒川 隆男 明治大学, 文学部, 教授 (60022258)
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Research Abstract |
98年度の研究課題はナチ時代の日常生活であった. 研究を進めるうちに気づいたのは、当然のことながら、ナチ時代の日常生活を、迫害を受けなかったドイツ人が記述している場合と、ユダヤ人や反ナチのドイツ人が記述している場合とを、区別しなければならないことである.前者の場合には,日常生活にナチが風俗として影を落としているだけで,矛盾はとらえられないということになりがちであり、実際,ナチの問題を普通のドイツ人の日常生活から掘り起こそうとうする試みがしばしば挫折することは、70年代以来指摘されている.後者の例としては、ナチに抵抗する地下組織で活動していたRuth Andress-Friedrichの手記"DerSchattenmann"や、ドレスデンの工科大学の教授でユダヤ人であったViktor Klempererの浩満な日記"Ich will Zeugnis ablegen bis zum letzten"などが挙げられるが、これらの記述からは、彼らがどんな恐怖と闘いながら日常生活を送っていたかが如実に伝わってくる.日常生活の記述がこのように対比的になるのは、ナチはみずからが実際にやっていたことを国民には隠し,のみならず,ユダヤ人虐殺などについてたまたま知った者が発言ると、流言飛語だとして罰していたからである. ナチ時代の日常生活を特徴づける重要な要素の一つは、どんな小さな町や村にも張りめぐらせた暴力装置である.反ナチ的な活動をすれば勿論、ナチの悪口を言っただけでも、ナチの党支部から党員が2、3人やってきて脅しをかける.ここで重要なことは、党員は警察ではないから合法なのでもないが、だからと言って非合法でもないということである.彼らは反ナチ的な人々に、暴力団まがいの強誼や暴行をしばしば働いたが、罰されたことはなかった.ナチという政治体制は非合法の暴力を容認し、むしろこれをーー暗黙のーー支えにして成り立っていたのである.上級者の命令に服して殺人をした場合下級者は免責されるかという問題は、ナチの場合には当てはまらない.何故なら、こうした問題は、殺人の命令が非合法である場合に,即ち,国家が殺人を禁じている場合に,問題となるのだから.このことは、ハンナ・アーレントも"イェルサレムのアイヒマン"で論じているように、ナチが国家として犯罪を犯していたということにほかならない.
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[Publications] 恒川隆男: "権力の戯れに文学と国家公安局,プレンツラウアー・ベルクを焦点に" 飛行. 31. 1-9 (1998)
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[Publications] 恒川隆男: "再統一後のドイツの小説" 世界文学. 87. 11-19 (1998)
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[Publications] Tokuo TSUNFKAWA: "Ibuki Shnrohodo : Stadio uber Thonis Mouno“DoktorFinshes"" Arbitrium Zeichrif for Rezensinen. (印刷中).