1997 Fiscal Year Annual Research Report
今世紀初頭の文学における音の神秘力と電子機器音響との照応
Project/Area Number |
09610545
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
筑和 正格 北海道大学, 言語文化部, 教授 (50002225)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
副島 博彦 東京工業大学, 外国語研究教育センター, 助教授 (30154694)
竹中 のぞみ 北海道大学, 言語文化部, 助教授 (20227044)
西 昌樹 北海道大学, 言語文化部, 助教授 (90113597)
伊藤 章 北海道大学, 言語文化部, 教授 (90091412)
高橋 吉文 北海道大学, 言語文化部, 教授 (20091473)
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Keywords | サウンドスケープ / ロ-ファイ / 越境の導き / 人体改造 / 聴覚の再編成 / グ-テンベルク銀河系 / 視覚の解体 / 技術と神秘化 |
Research Abstract |
私たちは、当初の計画に基づき、次の3点を軸にして研究会を繰り返した。1)音意識の革命を行った諸理論書(マリ-・シェ-ファー『世界の調律』、ケージ、マクル-ハン等)を、視覚に関する著作と対照するかたちで、メディア的意識から検討することからはじめ、2)明治以来の日本におけるサウンドスケープの変遷と、現代における現況をにらみながら、新しい生産的なサウンドスケープの可能性の論議、続いて当研究プロジェクト本来の目的である3)19世紀末から20世紀初頭の都市文学を中心に音響描写と作家の音への意識の蒐集・抽出とその類型化作業を行った。その中間的結果は次の2点に明確に現れている。a)聴覚、音に関する描写は異常なほどに少なく、それも、視覚的描写の添え物として随伴し、聴覚が視覚に隷従している関係が確認された。『世界の調律』が指摘するように、視覚が絶対優位にたつ「グ-テンベルク銀河系」の印刷時代、詩人や作家自身が視覚に障害をもっている特殊なケースを除けば、文学における描写も実際にはほとんど視覚的描写に隷属していたからと考えられる。と同時に、b)クレーリーの画期的な『観察者の系譜』が証明する19世紀初頭に起きた視覚の無根拠化による定量化に対応して、世紀末に音響、聴覚の記録や定量化に向かう初歩的な音響機器が発明されると、聴覚が(1)平準化されかつ(2)神秘化する。差異化以前の音響への音を開放しようとする作曲家の流れと、20世紀初頭のム-ジル等の、都市文学とはいいがたい観念的な文学に顕著に現れている、視覚化されていた音響を抽象化して神秘体験を見る、といったねじれた現象が確認された。音の定量化と神秘化というまったく相反する2極のさらなる検証とその意味の解読は、次年度の研究において行う予定である。本年度の基礎的研究の一部は、中間的報告書として、筑和正格編『音への意識の変化』(1998年3月2日刊)にまとめた。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 副島博彦: "「人造人間の誕生」-近代の身体文化" wedge(ウェッジ). 第9巻9号. 44-45 (1997)
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[Publications] 副島博彦: "儀礼からアトラクションへ-トゥーリズムのなかのケチャ" ユリイカ. 第29巻第10号. 230-241 (1997)
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[Publications] 高橋吉文: "変幻するメディアーバラーデ-" 言語文化部研究報告叢書24「歌うメディアーバラーデの世界」. (3月刊行予定). (1998)