1998 Fiscal Year Annual Research Report
今世紀初頭の文学における音の神秘力と電子機器音響との照応
Project/Area Number |
09610545
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Research Institution | HOKKAIDO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
筑和 正格 北海道大学, 言語文化部, 教授 (50002225)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
副島 博彦 東京工業大学, 外国語研究教育センター, 教授 (30154694)
竹中 のぞみ 北海道大学, 言語文化部, 助教授 (20227044)
西 昌樹 北海道大学, 言語文化部, 助教授 (90113597)
伊藤 章 北海道大学, 言語文化部, 教授 (90091412)
高橋 吉文 北海道大学, 言語文化部, 教授 (20091473)
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Keywords | 音の定量化と神秘化 / 指示対象からの乖離 / スキゾフォニア(音分裂症) / 音響迷宮 / 音の神秘化 / 耳の証人としての文学 / 音響効果 / サウンドスケープ |
Research Abstract |
電子機器音響による人工的音響の氾濫に呼応して、私たちは、そのような人工的音響の.始まりや音そのものに対する意識の変化のはじまりを、20世紀初頭前後(世紀転換期)の文学にさぐろうと試み、その頃の都市文学を中心に音響描写や音への意識の抽出とその類型化作業を行った。しかし、音に関する描写は異常なほどに少なく、視覚的描写の添え物として随伴する聴覚の視覚への隷従関係が逆に確認されたにすぎない。けれども、その音響意識の変化を、音響生理学や電磁気開発史と横断的に重ねあわせて考察していく時、クレーリーの画期的な『観察者の系譜』が証明している19世紀初頭における視覚の指示対象からの乖離現象が、聴覚においても音響生理学や電磁気研究、文学や音楽において確認することができた。その音響の指示対象からの乖離意識が、世紀末、電話やニーチェの思考という形で純粋培養状態に到達し、その純粋培養化された音響意識を介して、ウィーン世紀末等が、それまでの西洋文化を律してきた立体性(遠近法)と大地への繋縛を断ち切り、20世紀の中心原理である「平面性」という母型へシフトする。 この定量化による乖離は、さらに当初から非地上的天使の歓喜に満ちた浮揚として神秘化されていく。定量化と神秘化が表裏一体で開始していたのである。かくして、19世紀初頭に開始した乖離の神秘化は、乖離の奈落と天使的飛翔への衝動を伴いつつ、現代の電子機器音響による人工音響の遍在とヴアーチァル・リアリティ的恍惚へと一直線につながっていく大きな流れが明らかとなる。 本研究の成果は、中間的報告書『音への意識の変化』 (筑和正格編、1998年3月2日)と、最終成果報告書『乖離する音』高橋吉文編、1999年3月10日)にまとめられている。
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