1998 Fiscal Year Annual Research Report
1930年代パリと外国人芸術家ー「パリ神話」の変容と都市表象
Project/Area Number |
09610548
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
今橋 映子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (20250996)
|
Keywords | パリ研究 / 1930年代 / 都市表象 / 文学と写真 |
Research Abstract |
平成9年度から本格的に進展した本研究課題は、本年度(平成10年5月29日刊)に、単著として公刊することができた。『パリ・貧困と街路の詩学ーー1930年代外国人芸術家たち』(都市出版)と題した本書は、総計500頁、既出論文13本に書き下ろし2本を加えた論文を再構成し、書き改めて刊行したものである。 本書は、3部構成である。第一部「亡命地パリの意味」では、ナチス政権成立後、ドイツ亡命者たちにとってパリが果たした役割と、文化的不毛性について、歴史的資料に基いて詳細に再検証し、さらにベンヤミン『パサージュ論』を本書の方法序説として分析した。第二部「街路・断片・写真」では、主に中央ヨーロッパ出身の亡命写真家たちによって、パリのフォト・ジャーナリズムが活況を呈し、その中から街路をめぐる新たな美学が生まれた点を追及した。そして第三部「貧困という制度」では、不況とナチズムの危機の時代に、亡命芸術家たちがパリの<浮浪者>に自らのアイデンティティを仮託した点をオーウェルとロートの作品から分析した。 本書の目的は、本科研費の課題と同じく、1930年代の危機の時代に、パリに亡命した多ジャンルの芸術家たちにとって、なぜ〈パリ〉が重要なテーマそのものとなり得たのかを考察したものである。政治、文学、絵画、写真の他領域を横断する際に、比較文学の方法を駆使し、芸術史上、従来もっぱら「不毛の時代」「政治参加の時代」と捉えられていた1930年代に、全く別の光を当てることに成功した。本課題の最終年度にあたる平成11年度には、本書からさらに発展して、<パリ神話>の成立をめぐる文学/写真の相互関係に焦点をしぼり、もう一冊の単著を執筆する予定である。
|
Research Products
(1 results)