1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09620005
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
森際 康友 名古屋大学, 法学部, 教授 (40107488)
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Keywords | 信頼 / 分業 / 公共財 / 私的自治 / 神の見えざる手 / 公共性 / 公共圏 |
Research Abstract |
平成10年度は、収集した資料を整理しつつ、経済学、経営学、通信の専門家から専門的知識の提供を受け、Bernardの無差別圏概念や、佐古の信頼関係論、地方都市の通信監理問題などに接した。これらは、分業秩序における企業倫理の社会的機能について高信頼性論を試みる自説を補強する、との所感を得た。そこで分業論に関する通説的見解を以下の3テーゼに要約し、それぞれについてを批判的に検討した。 1) 分業は疎外する。 2) 分業は効率的である。 3) 従って、生産システムにおいては、疎外の程度が少なく、かつ、効率的な分業を目指すべきである。 その結果、これらはいずれも一面の真理しか捉えていないので逆も成り立つ、との暫定的結論を得た。すなわち、分業は豊かな人間関係を可能にするが、この秩序が制度化し、さらに組織化するに従って硬直化の度合いが増加し、非効率的なものとなる。従って、分業を進めるのは、生産の効率性よりも分業秩序が公共財として社会的効用を高めることを主たる理由とすべきである。 これは一見するとこう、何の変哲もない結論である。しかし、これは、市場における当事者による私的自治の行使、より直截には、各当事者の利益実現行動がもっとも効率的な資源配分を帰結すること、すなわち市場が「神の見えざる手」の機能を有することについて、従来気づかれていなかった説明を可能にするかもしれない。「神の見えざる手」はよく知られてはいるが、うまく説明できないものであった。ところが、この研究は、資源のパレート最適な配分を、homo economicusによる利得行動だけを変項とするシステムではなく、公共財生産にかかわる複雑なシステムの一部として捉える観点を提起する。 公共財生産に関わるシステム論は一見新しそうに思われるが、実は、伝統的な法学・政治学が公共性論の名のもとに行ってきたと考えることができる。その観点から改めて実定法における諸研究を捉え直すと、昨年度行った「民法と憲法」理論の成果を、民法の公共圏形成・維持・促進機能を問題とする議論として把握することができる。すると、昨年来の、企業における組織的流通を、契約を用いた市場的交換よりも効率的な流通方式として捉えるアプローチが、新たな意味を帯びてくる。
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