1997 Fiscal Year Annual Research Report
国際刑事裁判制度の組織原理と機能に関する研究-国家管轄権との交錯と協働を中心に-
Project/Area Number |
09620024
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
古谷 修一 香川大学, 法学部, 助教授 (50209194)
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Keywords | 国際刑事裁判所 / 旧ユ-ゴスラヴィア / 管轄権 / 国際刑事法 |
Research Abstract |
本年度は、1,旧ユ-ゴスラヴィア国際刑事裁判所の設置に関する安保理内における議論、2,旧ユ-ゴ裁判所が自らの管轄権に関して下した決定、および3,各国における実施立法の特徴、に関して研究を実施した。 1,国際刑事裁判所の設置を決定した安保理決議827の審議状況を綿密に検討すると、裁判所の管轄権が国内裁判所の管轄権に優位すると定めた裁判所規程第9条の根拠について、必ずしも十分な共通認識が存在しなかったことが明らかとなった。また、一部の理事国は、この優位性が原則として旧ユ-ゴ構成国に対するものであり、あるいは国内裁判所が公正で独立した裁判を実施できないという例外的な状況にのみ当てはまると主張している。このことは、同規程草案を起草した国連事務局との間に考え方の相違が存在したことを実証している。 2,さらに、同裁判所の決定を考察すると、優位性に関して裁判所自身がまったく異なる解釈を展開したことが明らかとなった。1995年のTadic事件控訴部決定は、アイヒマン事件判決(イスラエル)に依拠しながら、専ら犯罪の普遍的性格(普遍的管轄権)を根拠に優位性を主張した。しかしながら、この解釈は、上記の安保理での議論と異なるだけでなく、犯行地国と国際刑事裁判所の管轄権のみを認めるジェノサイド条約の枠を脱して、自らの管轄権の正当化を図ったアイヒマン事件におけるイスラエルの論理とも異なる。この意味で、裁判所はまったく新しい論理を展開しことが明らかとなった。 3,これに対して、約20ヶ国の国内実施立法を精査すると、犯罪人引渡法等の伝統的な司法共助システムの類推適用が多く見られた。規定上の優位性に反して、各国内での実施においては国内法による裁量が留保されており、同裁判所の管轄権の一元的な優位性が必ずしも、国内実施レベルで確保されていないことが実証された。
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