Research Abstract |
建築基準法上の私道には,一般公衆の自由な通行が許容され得る場合があるものの,だからと言って,このことは,私道敷について権利を有する所有者等と私道利用者間で,私法上の通行権が設定されたことを意味するものではなく,私道の通行は単に公的規制を受けたことの反射的利益にすぎない,と伝統的に解釈されてきた。同法44条違反の行為などの通行妨害が生じた場合に,私道利用者は,私道敷権利者を相手に,直截的にその妨害の排除を請求できようか,もしも可能とされる余地があるならば,それは如何なる法的根拠により許されるのであろうかが問題になり,これを巡って多くの裁判例が既に現れている。このような裁判例の特徴としては,いわゆる5号道路と2項道路に関するものが圧倒的に多く散見される。もとより5号道路にあっては,いわゆるミニ開発などにおいて,敷地予定地につき接道要件を充足させる必要から,事前にこの道路として位置指定処分の申請がなされることが多い。ところが,この指定処分に際し,現地に,境界線その他の適当な方法で道路位置を表示することが,指定処分の効力要件となるわけではなく,5号道路として指定を受けながら,現実には道路を築造しないで放置したり,私道上に不適格建築物を設置する私道敷権利者が少なくないことが,5号道路における紛争の原因となっているようである。また,2項道路にあっては,既存不適格建築物に対する同法44条1項の適用は除外されているから,2項道路の位置指定処分がなされたとしても,この建築物の所有者は直ちに除去義務を負うことにはならず,将来,既存不適格建築物について増改築等がなされる場合に,所有者は,2項道路として指定処分された部分における既存建築物を除去しなければならない。だから,同法42条2項は事後的に4メートル道路を確保しようとするものであるが,2項道路として指定処分されたとしても,実際には道路位置について何ら表示がされていないのが通常である。2項道路として指定される場所は,道路としての機能が十分でない場合が多く,2項道路に沿接する建築物の所有者が,後の増改築等の工事の際に,この除去義務に応じない傾向は強いようであり,長期間に亘り道路としての実体を備えない場合が出現する。裁判例を題材にした以上の考察から,私道所有者の社会的責任をどう法的に構成するかに係っている,との知見を得るに至った。
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