1998 Fiscal Year Annual Research Report
共生社会における土地所有権と生活利益との調整に関する研究
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09620031
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Research Institution | NIIGATA UNIVERSITY |
Principal Investigator |
関 武志 新潟大学, 法学部, 教授 (30187835)
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Keywords | 私道 / 土地所有権 / 妨害の停止 |
Research Abstract |
建築基準法上の私道は公的規制を強く受けている点で公道に近い性格を有するが,このことは沿道居住者に私法上の通行権が認められることを意味するものではなく,私道の通行は単に公的規制を受けたことの反射的利益にすぎない,と伝統的に考えられてきた。一方,規制違反の行為が生じた場合には,沿道居住者は特定行政庁を相手に是正措置命令や禁止・制限措置命令の発動を請求し得るが,かかる請求がなされたところで,特定行政庁は常にこれに応ずることが義務づけられるものではなく,この発動は特定行政庁の自由裁量行為であって,沿道居住者はかかる命令の発動を促すことができるにすぎない,とも一般に解釈されてきた。本研究は,以上の解釈状況及び実務的取扱いについて具に検証することを,まず最初に行った。次に,ドイツにおける相隣保護を対象に,そこでの学説と裁判実務の状況を探った。具体的には,ドイツでは連邦インミッシオン法が制定されているため,同法との関連で道路利用に関する裁判例と学説を検証し,とりわけ義務づけ訴訟と損害賠償訴訟を介して示された裁判実務の背後には,もはや反射的利益論を放棄した姿勢が窺えること,また行政法学説が連邦建設法(及び道路法)に定められた私的所有権に対する規制について,単なる公法的な性格のみならず私法的性格にも着目して共生的な理論構成を試みていること,などの特色を看取することができた。わが国には未だドイツにおけるようなインミッシオン法が存在せず,私的所有権の制限を解釈論の枠内で対処せざるを得ないため,そこでは共生的な考えを直ちに展開することは難しい立法状況にある。そこで,結論として,本研究は,安全ないし衛生という生活環境の保全という観点から,私道敷権利者の所有権は制限されることを積極的に容認すべく,沿道居住者には自助努力として妨害排除請求権の行使が許されてよい旨の解釈論を明らかにした。
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