1999 Fiscal Year Annual Research Report
交通不便地における裁判機関配置の適地性の研究-簡易裁判所の果たすべき役割、その整理統廃合と住民の裁判を受ける権利-
Project/Area Number |
09620038
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
佐野 裕志 鹿児島大学, 法文学部, 教授 (10145451)
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Keywords | 司法制度 / 裁判を受ける権利 / 簡易裁判所 / 少額訴訟 / 本人訴訟 / 民事調停 / 支払督促 / 裁判所書記官 |
Research Abstract |
1.(簡易裁判所の配置と再配置・再編成)第二次大戦後の司法改革の一環として新たに創設された簡易裁判所は、少額・軽微な事件を簡易迅速に処理するために当初全国に557庁が設置された(その後の増設及び沖縄の復帰に伴う編入により575庁となる)。その設置場所は、捜査段階での各強制処分に令状が必要とされたこともあり、裁判所法制定当時の警察署単位が基準とされた(警察署2カ所毎に)。その後の社会情勢の変動、人口の増加と都市部への流入、逆に周辺部の人口の急激な減少、さらに交通事情の変化や行政区画や警察署の再配置や再編成などから、当初の設置場所が合理性を有しなくなったため、その再配置が大きな問題となった。昭和61年の法制審議会の答申に基づく昭和62年法律第90号「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律」により、整理統廃合が行われた。 2.(簡易裁判所のニ重の役割)もともと簡易裁判所は少額裁判所として、市民間の小さな事件を柔軟に解決する任務を負っていたいが、しかし、創設時から地方裁判所と第一審を分担することも予定されていたと見られる。立法時の資料からは明確ではないが、当時の状況や、ほかの制度との関連からこのように理解すべきである。すると、簡易裁判所にはニ重の任務があることになるが、再配置・再編成が、この二つの任務にどのような影響をもたらすかが問題となる。第一審を地方裁判所と分担する点では、司法部の人的・物的資源の有効利用という面で合理性を有するが、しかし少額裁判所としての機能については、統合される簡易裁判所周辺住民の裁判を受ける権利を侵害することにならないかが問題となる。 3.(少額裁判所としての簡易裁判所)昭和62年改正時の資料を検討した結果、司法制度全体としてみるならば、このような整理統廃合は、周辺住民に多少の不便をかけることになるが、裁判を受ける権利を侵害するほどにはならないことが指摘できる。さらに、より重要なことは、このような再編成により簡易裁判所の人的・物的資源を有効に利用することができるようになり、裁判所にとって見れば手間暇がかかる少額事件(しかも本人訴訟)をまず大規模簡易裁判所で汲み上げることが行われるようになり、それが各地の簡易裁判所に広がり、平成8年の民事訴訟法改正に繋がったことである。ここで規定された少額訴訟や電子組織を用いた支払督促の東京簡易裁判所・大阪簡易裁判所への集中などは、簡易裁判所を再編成し、その資源を有効に利用できたからこそ、実定法に結実できたのであり、この意味でも昭和62年改正は積極的に評価すべきである。
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