1998 Fiscal Year Annual Research Report
シンガポールを事例とする多エスニック国家の国民統合研究
Project/Area Number |
09620073
|
Research Institution | Kitakyushu University |
Principal Investigator |
田村 慶子 北九州大学, 法学部, 教授 (90197575)
|
Keywords | シンガポール / 国民統合 / エスニシティ / 多文化主義 |
Research Abstract |
東南アジアの小国シンガポールは、人口わずか300万人ながら、華人77%、マレー系14%、インド系7%、その他2%という多エスニック国家である。冷戦後、世界各地でエスニック紛争が多発する中、独立30年を経たこの小さな都市国家は一度もエスニック紛争を経験せずに、かつ驚異的な経済成長を達成した。本研究は2年間を通して、シンガポール政府の国民統合政策の成果と問題点を検証することを試みた。 この国の国民はシンガポール人であるとともに、華人、マレー系、インド系、その他という4つのエスニック・コミュニティに分けられ、常時携帯が義務付けらる身分証明書にはその分類が記され、学校教育で義務付けられている第二言語の選択も原則として所属するエスニック・コミュニティの母語を選択させるなど、「多文化主義」の下に各コミュニティの文化、生活様式、宗教、言語は尊重されて平等に扱われている。従って特定のコミュニティへの優遇政策は行われず、社会的上昇の機会は個人としての国民に平等・一律に行われている。さらに、特定のコミュニティの集中居住を避けるために、国民の87%が住む公共住宅は、人口比率に応じてコミュニティ毎の居住比率の上限まで設定されている。この「多文化主義」と分散化政策は、多エスニック国家のモデルとなりうるのではないだろうか。 しかしながらこれらの政策は、イギリスのマラヤ・シンガポール植民地支配に起因するマレー系コミュニティの社会的地位の低さを個人の努力不足に帰し、それを政治問題化することを回避させてきたという問題点もある。マレー系の遅れは、80年代になってようやく注目されはじめた。隣国マレーシアのマレー系優先政策の成功やシンガポール政府の宗教教育の学校現場への導入による国民の宗教熱等がその背景として指摘される。マレー系の地位向上を目的とした自助団体が政府の大々的支援の下で結成されたが、このような動きは異なるコミュニティへの理解や同情を薄れさせるのではないかとも懸念されている。
|
Research Products
(4 results)
-
[Publications] 田村慶子: "現代シンガポール政治研究-人民行動党の一党支配確立と国民国家の創造" 九州大学大学院法学研究科提出博士論文. (1998)
-
[Publications] 田村慶子: "シンガポールの開発政治" 生田真人編『アジアの大都市シリーズクアラルンプル・シンガポール編』. (発表予定). (1999)
-
[Publications] 田村慶子: "創られる「家族の肖像」-アジア的価値とシンガポールの女性" 田村慶子編著『アジアの社会変動とジェンダー』. 明石書店. 55-85 (1999)
-
[Publications] 田村慶子: "マレーシアとシンガポールにおける女性と政治-ナショナリズム・国家建設・ジェンダー" (財)アジア女性交流・研究フォーラム(近刊), (1999)