1999 Fiscal Year Annual Research Report
後期スコットランド啓蒙にみる経済思想の変容と政策提言の展開の動態に関する実証研究
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09630013
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
関 源太郎 九州大学, 経済学部, 教授 (60117140)
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Keywords | ジョン・シンクレアー / トマス・チヤーマーズ / スコットランド啓蒙 / 工業化・都市化 / 救貧法 / コミュニティ / インダストリ / 生活習慣 |
Research Abstract |
本年度は、前年度に引き続きジョン・シンクレアーの統計的手法による思考がどのように貧民問題を扱っているかを検討し、さらにトマス・チヤーマーズの貧民対策の提言と実践についても吟味した。シンクレアーは、「小さな地域社会」では、生活様式が素朴で家族愛が強く住民は独立心に満ちているので、救済の対象となる貧民は極めて少数であると述ベ、そのことを、教区牧師の寄せた統計によって例証する。したがって、彼は、当時の貧民問題の究極の発生源は、このような「小さな地域社会」の利点を掘り崩す都市化、工業化にあると捉える。しかし、彼が提唱する対策は、当時進行中のこうした社会経済的動向に適応して自立した生活を営むために必要な生活習慣を個人が身につけることであった。学校教育や宗教教育の機能が重視され、貯蓄銀行の意義が強調され、友愛組合が積極的に推奨された。公共事業計画による雇用の創出も彼は提言しているが、それは副次的・一時的に過ぎない。「小さな地域社会」をモデルにして対策を立案しこれを実践したのはチャーマーズであった。彼は、グラースゴウのセント・ジョーンズ教区を25の地区に分け、それぞれに長老を配し貧者を世話させると同時に、基金の管理も教区へ復帰させ、新規の被救済民用の資金には「自発的献金」を用いた。いわば、当時のスコットランドの農村地域の制度を都市にも導入したのである。同時代人の見解の中には被救済民の数が滅少したなどの肯定的な評価も見られるが、この制度は他の教区には普及しなかったし、その法制化の動きもスコツトランド教会内外の反対の前に挫折した。確かに彼らの見解は、社会経済史家が言うように、ナポレオン戦争終結後の社会において被救済民用資金の負担からの解放を求める地主や個人の責任を強調する福音派の利害と関連していたであろうが、同時に産業社会における社会形成、主体形成に対し持った歴史的意味も見逃せないと思われる。
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