Research Abstract |
マグマ性蒸気は,安定同位体比が天水に比べて著しく高く,それが最良の指標となっている。九重硫黄山では,1960年前後にそのような高同位体比をもつ蒸気が観測されたが,その後,徐々に減少し,最近は,ほとんど天水蒸気で占められている。噴気と温泉水の同位体比は,天水が臨界温度以上の高温領域まで循環し,超臨界蒸気が下からのマグマ性蒸気と混合していることを示す。噴気と温泉水のトリチウム濃度は,天水が蒸気化して噴気孔から放出されるのに5年以下の短い滞留時間であるが,天水の液体循環系では100〜200年の時間を要していることを示唆する。噴気蒸気と温泉水につき,安定同位体及びトリチウムの濃度の長期にわたる変化を見る必要があり,1990年から観測を続けている。本年度は数回の採取を行い,現在,その同位体比及びトリチウム濃度を計測中である。また,データロガを用いて湧水温度の短期変化についても計測中である。 ところで,なぜ,噴気蒸気中に天水の割合が増加しているのか,これは,1995年の水蒸気爆発とも関連する基本の問題である。本年度中に行った解析により,蒸気通路内では粘性の支配する流れであることが推定される。それは,もし,600℃以上の深部マグマ性の蒸気が観測温度まで等エントロピー過程で冷却されるためには,超音速流が形成されていなければならず,割れ目系では超音速流はただちに減衰してしまうからである。この数10年の間,臨界温度付近までの天水循環範囲で,蒸気通路の圧力が低下し続け,周囲の天水循環系の圧力よりも低下してきたことが推定される。これによって,蒸気通路に向う天水の流れが増加し,周囲から冷却が進行していることが推定される。それには,マグマ性蒸気の深部通路において透過性が低下してきたことが考えられる。
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