Research Abstract |
本研究に用いた試料は,すでに1991年に亜熱帯海域に位置するシャツキ-ライズの頂部平坦面である水深2680mから,ピストンコアラーを用いて採取した全長3mの堆積物コアである(北緯32度、東経158度).浮遊性有孔虫遺骸の酸素同位体比の測定(北海道大学大場忠通教授分析)によって,堆積物の年代は26万年までさかのぼると推定される.これまでに,2cm毎に切断した全150試料を使って,生物起源炭酸カルシウムの分析が終了している.また一部の試料については鉄,アルミニウム,チタン,マンガン,銅,バナジウム,バリウムおよびリンの測定と共に,放射性核種であるトリウム230の測定も行われている. 本年度は,全試料に対して生物起源物質であるオパールおよび有機態炭素を測定した.また,鉄を含む8元素についても,すべての試料の測定を終了し,詳細な鉛直変動を得ることができた.一方,50試料を使ってトリウム230およびトリウム232,そしてウラン234およびウラン238を測定し,年代に対する変動をほぼ明らかにすることができた. 陸起源砕屑物質の構成成分である,鉄.アルミニウム,チタンおよびバナジウムの濃度は,時代変動がきわめて小さく,これらの元素は海洋中の生物地球科学的過程にほとんど関与しないと考えられる.生物起源物質である炭酸カルシウム,オパールおよび有機態炭素含有量の時代変動は,現在と12万年前の温暖期に高いことが判明した.トリウム230は海洋中の沈降粒子によって効率よく堆積物中に運搬されやすい性質を持つ.そこで,過剰トリウム230の堆積フラックスを見積もったところ,そのフラックスの変動は,現在と12万年前に大きかったことが明らかとなった.これらの結果からは,北西太平洋の亜熱帯海域では,氷期おけるより,むしろ温暖期において,海洋表層の生物生産量が大きかったと考えられる.
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