1999 Fiscal Year Annual Research Report
補酵素モデルを用いたC1一単位転移反応のシミュレ-ションとモデル化合物の構造因子
Project/Area Number |
09640649
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
多田 愈 早稲田大学, 理工学部, 教授 (90063651)
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Keywords | メタン菌 / 補酵素Mモデル / F430モデル / メチル基転移 / チイルラジカル / 超原子価 |
Research Abstract |
メタン発生菌は古細菌に属し、高等生物や多くの微生物とは異なる代謝系を有する特異な生物群である。そのメタン発生の終盤はメチル基がメタノプテリンの窒素上から補酵素Mのイオウ上への転移、さらに補因子F430のニッケル上への転移と同時に(HTP)SHと補酵素Mから混合ジスルフィドが生成することである。つまり、ここでは補酵素Mが中心的役割を演じている。この補酵素M中にはイオウに配位してイオウの超原子価状態を安定化させると考えられるスルフォン酸基が存在する。そこで本研究ではチオールラジカルの反応性に対する分子内配位性水酸基の影響を精査した。 補酵素Mモデルのチオールラジカル中心へのメチル基転移は分子内水酸基によって大きく加速された。特に14〜16族ヘテロ原子に対する強い配位性で知られるマーチンリガンドを用いた場合その効果は顕著であった。チオールラジカルがメチル基ラジカルを受け取る際、中間状態で水酸基が配位してイオウは超原子価(10-S-3)状態を採り、遷移状態が安定化される結果と考えられる。 一方、メチル基が補酵素Mモデルのイオウ上からF430モデルのニッケル上に転移し、同時に混合ジスルフィドを生成する反応では、補酵素Mモデルの分子内水酸基はこの反応を完全に阻止した。ただし、分子内に水酸基を有していてもそれがイオウに配位し得る位置関係に無ければ阻止作用を示さない。ここでは水酸基の分子内配位はイオウに超原子価(11-S-4)状態を採らせ、遷移状態を不安定化することが考えられる。 すなわち補酵素Mの分子内に存在するスルフォン酸基はメチル基を受け取る時は配位して助け、メチル基を渡す時はこの配位を解くことによって起こると考えられる。これらの結果は補酵素Mのスルフォン酸基の存在理由を説明するとともに新しい有機反応を構築する際、大きな示唆を与えるものである。
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