1997 Fiscal Year Annual Research Report
性役割の逆転した魚類における雌雄間の利害の対立と配偶システム
Project/Area Number |
09640753
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
柳沢 康信 愛媛大学, 理学部, 教授 (90116989)
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Keywords | 性役割の逆転 / フィリアル カニバリズム / 繁殖戦略 / トレードオフ / テンジクダイ科魚類 / ヨウジウオ科魚類 / 配偶システム / 一夫一妻 |
Research Abstract |
雄が卵を口腔内で保育するテンジクダイ科魚類と育児嚢で保育するヨウジウオ科魚類は性役割の逆転した代表的なグループである。本年度の研究では,愛媛県室手海岸でこれまで2年以上標識個体を継続的に観察しているオオスジイシモチとイシヨウジウオを引き続き調査した。オオスジイシモチについては,繁殖期間中SCUBA潜水によって毎日センサスすることによって年齢と繁殖成功の関係,雄親の年齢とフィリアルカニバリズム発生のパターンの関係に関する詳細なデータを得た。この2年間のデータは,以前に提示した「年齢特異的なフィリアルカニバリズムの発生パターンは,現在と将来の繁殖のトレードオフで説明できる」という仮説(Okuda et al.1997)を積極的に支持するものであった。その発生パターンは,成長に多くを投資する1歳魚と成長がほぼ止まった2歳以上の魚の間でとくに顕著な差異を示すことが明らかとなった。イシヨウジにおいても,標識個体の繁殖履歴を繁殖期間を通じて把握することができた。この3年間の結果から,魚類においてはきわめて例外的にペアが両方とも生存している限りは原則的に年を越えてもペア・ボンドを保ち,連続的な一夫一妻制を示すことが明らかとなった。また,従来一夫一妻のヨウジウオ科魚類(例えば,タツノオトシゴの仲間)では性の役割は逆転していないと言われてきたが,イシヨウジでは求愛時に雌のほうが積極的で雌間で争いがおこることから,性の役割は逆転していると判定された。 また,室手海岸に分布するテンジクダイ科7種の外部形態と生息場所,生活・繁殖様式を種間比較し,非繁殖時に中層で高密度で群れ生活するクロホシイシモチとネンブツダイのみで雄が明瞭な二次性徴(吻端部または下顎先端が突出する)を持つことが明らかとなった。これは雌にとって繁殖器のなわばり維持のコストが高く,そのため雌の高死亡率によって性比が雄に偏ることが関連していると推定した。
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[Publications] N.Okuda, I.Tayasu and Y.Yanagisawa: "Determinate growth in a paternal mouthbrooding fish whose reproductive success is limited by the buccal capacity" Evolutionary Ecology. (印刷中). (1998)
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[Publications] N.Okuda, T.Takeyama and Y.Yanagisawa: "Age-specific filial cannibalism in a paternal mouthbrooding fish." Behav Ecol Sociobiol. 41. 363-369 (1997)