1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09640839
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
早木 仁成 神戸学院大学, 人文学部, 助教授 (60228559)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊谷 純一郎 神戸学院大学, 名誉教授 (10025257)
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Keywords | ニホンザル / 社会行動 / 所有 / コミュニケーション |
Research Abstract |
主に京都市嵐山において、デジタルビデオカメラを用いてニホンザルの所有行動に関する映像記録を収集した。所有にかかわる社会交渉は、彼らの日常生活の諸場面で随所にみられたが、より明瞭な場面は餌場での採餌時であった。採餌場面において餌を獲得する過程では、優劣が露骨に現われ、攻撃行動を伴うことも少なくなかった。しかし、いったん食物が獲得されたあとは、無理やりにその食物を相手の手や口から奪い取るという行動は通常抑制されていた。このような社会的抑制が所有行動の根底にあると考えられる。本年度は、このような社会的抑制の実態を把握するために、抑制が崩れる場面についての資料を分析した。 採餌場面において抑制が崩れる場面は、(1)劣位者が優位者の存在を無視して食物を取る場面と、(2)劣位者がすでに保持している食物を優位者が横取りする場面に分けられた。前者は、その場にいる者が優劣を無視して食べ物を取ろうとする「早い者勝ち」に似た状況であり、しばしば偶発的に生じた。たとえば、多くの雌に取り囲まれながら悠然とサツマイモを食べていた第1位の雄が、かなりの食べかすを残したまま立ち去ったとき、周囲の雌たちはいっせいにその食べかすに突進した。このような「早い者勝ち」状況の生起は、彼らの「所有」が所有者と所有対象とのきわめて直接的な関係の中でしか成立しないことを物語っていた。後者の場面は、「略奪」や「引ったくり」の状況である。食物を保持している劣位者が優位者の接近によって悲鳴をあげて、攻撃的な交渉に移行することもあったが、実際的な「略奪」や「引ったくり」は、たいてい母親や姉などが赤ん坊に対しておこなった。しかもそのような略奪には、けっして略奪する側からの攻撃行動がみられなかった。ここでの略奪者は、所有者に対する社会的抑制を放棄したというよりも、赤ん坊の所持物を所有物とは認めていなかったというべきであろう。
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