Research Abstract |
本年度は最終年度であり,現地調査・水理実験の継続と総括が中心となる. まず,ダム湖と同様に人工的な湛水域である長良川河口堰を対象にして,その水質・底質調査に加えて魚類の餌料生物の基礎となる微生物相(細菌・藻類・プランクトン類)に関する調査・分析を行った.活性汚泥などにおける微生物群集構造の変化の解析に利用されているキノンプロファイル法を,長良川河口堰周辺における河川水や底泥に適用して,微生物群集の量・質的な評価を行い,底質や水質特性などの環境条件とどのように関わっているかを把握した.その結果,河口堰直上の底泥は季節によってMK(メナキノン)が多く嫌気状態が支配的となること,微生物量に直結するキノン濃度と水質指標(COD,クロロフィル-aなど)や底質特性量(粒径,強熱減量など)との相関関係から,キノン濃度は粒径が細かく有機物が多い(強熱減量が大きい)ほど微生物量が多くなる傾向が明らかにされた.さらに,現地調査と並行して,河川構造物内の魚類の遡上行動の把握を主な目的とした魚道実験(室内実験)を行った.対象魚種は,稚アユ(琵琶湖・姉川),ウキゴリ(長良川),渓流魚:イワナ・ヤマメ・アマゴ(人工種苗)であり,流れ場(流量・流速・乱れなど)と魚類の遡上行動(遡上速度・経路・休憩状況など)の関係について実験的な検討を行った.その結果,遊泳魚は突進速度(10×体長)をかなり上回る速度で遡上すること,底生魚にとっては休憩場所として底質材料や隙間などの要因が重要となることなどが明らかにされた. 3年間継続した調査研究を通じて,本研究の総括が行われた.要約すれば,水流や土砂の連続した流れをダムが制限することにより,物理的に魚類や小型動物の移動を困難にすること,下流の河川から沿岸域までの様相を時間的にも空間的にも余り変化のないものにして,優占種を含めた出現生物相を変化させること,また,ダム湖の出現による新たな環境のもとでそれに適応できる生物が出現することなどが明らかにされた.見方を変えると,ダム湖の出現は新たな環境創造であり,環境の保全・修復・創造に,対象空間を流域から沿岸部まで拡大しなければならないことや時間的な変動も考慮する必要が指摘された.さらに,ダム湖では,水位変動が宿命的に生物の生息環境に大きな影響を与えており,この「影響の一部を緩和するもの」として湖面に浮かぶ人工浮島の効用が議論され,水位変動の影響を受けずに生物の生息環境を創出したり,望ましい景観形成や水質浄化,波浪対策など複合的な効果が期待できる反面,人工浮島を環境復元の技術として過大評価することは危険であることなどが指摘された.
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