1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09660072
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
松崎 博 埼玉大学, 理学部, 助教授 (80008870)
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Keywords | 生体膜 / リン脂質 / 大腸菌 / 転写 / 突然変異株 / 抑制変異 |
Research Abstract |
本研究は生体膜リン脂質が転写制御にどのような役割を果たしているかを大腸菌のリン脂質合成欠損突然変異による転写レベルの変動を抑制する変異株の分離し、シグナル伝達の2成分制御系遺伝子の転写発現との関連並びに膜リン脂質の最適存在状態と転写能との関連性を考え、研究を企図した。平成9年度の本研究により、次のような成果が得られた。(1)大腸菌リン脂質合成欠損変異株における生育の致死性並びに転写レベルの変動に対応した運動性の低下を抑制する突然変異株の分離。野生型大腸菌W3110染色体断片に突然変異誘発トランスポゾンminiTn10cam(クロラムフェニコール耐性遺伝子保持)を挿入した変異を含むPlファージ溶菌液を調製し、酸性リン脂質合成欠損pgsA3変異株に形質導入した。野生型遺伝背景ではこの変異は致死的であるが、致死変異を制御するlpp欠損変異以外の抑制変異株また運動能の回復する変異株の分離を行った。この結果、数株の酸性リン脂質合成欠損変異pgsA3による運動能低下または致死性を回避した変異株を分離した。このうちの一株のcam挿入部位の塩基配列を調べたところグリセロリン酸の還元に関わる遺伝子と相同性が認められた。この部位のみを保持した株にpgsA3変異を単独で導入すると酸性リン脂質合成が部分的に回復し、生育する株が分離された。この変異により、グリセロリン酸のプールの変化で酸性リン脂質欠損でも生育可能になったと推察される。運動能を回復した変異株についてはpgsA3変異で抑制される鞭毛形成マスターオペロンflhD転写発現の回復が認められた。(2)枯草菌染色体領域ypopによる酸性リン脂質欠損の致死性の回避。これら制御変異に関連してpgsA3変異の致死性を回避する枯草菌の染色体領域ypopが同定された。このように本研究において現在までに新たに2種類の酸性リン脂質欠損を抑制する変異、遺伝子領域が明らかになった。(3)またpgsA3変異株より、pgsAのコードする遺伝子産物ホスファチジルグリセロリン酸(PGP)シンターゼ活性が上昇した復帰変異も分離され、解析を進めている。また他のリン脂質合成過程を触媒するホスファチジルセリン(PS)シンターゼをコードするpssAl温度感受性変異並びにカルジオリピン合成酵素遺伝子欠失変異cls2kanについても、運動能の回復、温度感受性の消失または致死性の回避を指標に抑制変異株の分離を進めている。(4)PS並びにPGPシンターゼ活性共その転写発現が温度感受性であることが見い出された。リン脂質合成遺伝子の発現は様々の環境要因で影響を受けることが推測されたが今回の発見で、本研究の抑制変異の生体膜、シグナル伝達との関連に興味が持たれる。リン脂質合成欠損変異株の生育の致死性の抑制または遺伝子の転写発現の回復する変異体が分離されたので、今後遺伝子の同定を行い、その機能とリン脂質の機能との関連を解析する。また、リン脂質合成遺伝子の環境要因による発現制御と2成分制御系のセンサータンパク質の転写発現との関連も解析する。これらの知見をまとめて、膜リン脂質転写シグナルについてのモデルの提起を目標とする。
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[Publications] 井上晃一, 松崎 博等: "大腸菌における遺伝子発現のリン脂質を介する制御について" 脂質生化学研究. 39. 235-238 (1997)
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[Publications] Inoue,K., Matsuzaki,H. et al.: "Unbalanced membrane phospholipid compositions affect transcriptional expression of certain reguratory genes in Escherichia coli." Journal of Bacteriology. 179. 2869-2878 (1997)
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[Publications] Matsumoto,K., Matsuzaki,H. et al.: "Cloning, sequencing and disruption in Bacillus subtilis psd gene coding for phosphatidylserine decarboxylase." Journal of Bacteriology. 180. 100-106 (1998)
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[Publications] Inoue,K., Matsuzaki,H.et al.: "Supperssoin of lethal effect of acid-phospholipid deficiency in Escherichia coli by Bacillus subtilis chromosomal locus ypoP." Biosci. Biotech. Biochem.62. 540-545 (1998)