1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09660072
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
松崎 博 埼玉大学, 理学部, 助教授 (80008870)
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Keywords | 生体膜 / リン脂質 / 大腸菌 / 転写 / 突然変異株 / 抑制変異 |
Research Abstract |
本研究は生体膜リン脂質が転写制御にどのような役割を果たしているかを大腸菌のリン脂質合成欠損突然変異による転写レベルの変動を抑制する変異株の分離し、シグナル伝達の2成分制御系遺伝子の発現との関連並びに膜リン脂質の最適存在状態と転写能との関連性を考え、研究を企図した。平成10年度の本研究により、次のような成果が得られた。(1)大腸菌主要酸性リン脂質合成欠損変異pgsA3株における鞭毛形成マスターオペロンflhDの転写発現低下を抑制する突然変異株の分離と解析。野生型大腸菌W3110染色体断片にトランスポゾンminiTn10cam(クロラムフェニコール[CM]耐性遺伝子保持)を無差別に挿入し、遺伝子破壊した変異を含むPlファージ溶菌液を調製し,酸性リン脂質合成欠損pgsA3変異株に形質導入した。flhD転写強度は染色体に組み込んだflhD-lacZ遺伝子転写融合株のβ-ガラクトシターゼ活性により測定した。この結果、分離CM耐性変異株689株より、flhD転写活性が低いpgsA3変異株のレベルより大幅に増大している株3株を分離した。プロモーターを含むl14bpの最小領域を保持した株では野生型のおよそ2倍、408bp保持した株では野生型レベルの転写活性を示した株が分離された。CM耐性遺伝子を指標に遺伝子破壊部分をクローニングし、挿入部分の塩基配列決定により、破壊遺伝子の同定を進めている。(2)酸性リン脂質欠損pgsA3変異だけでなく、両性リン脂質ホスファチジルエタノールアミンの完全欠損変異pssA10::cm(△pssA)で生ずる鞭毛マスターオペロンflhDの転写抑制の性質を調べた。野生型株、すべての変異株でカタボライト転写抑制が認められた。さらに野生型並びにpgsA3変異株ではcAMP添加による回復を示したことより、CRP推定結合部位が機能していることが推察された。一方、浸透圧応答に関わる2成分制御系に関係する遺伝子ompB(ompR-envZ)またはompR欠損変異株ではflhD転写が大幅(約40%)に低下することを見いだした。この低下はflhD転写発現に必要な最小114bpの領域保持で可能であった。(3)従来、構成的に発現すると考えられていた酸性リン脂質合成開始過程を触媒するホスファチジルグリセロリン酸(PGP)シンターゼの構造遺伝子pgsA並びに両性リン脂質ホスファチジルエタノールアミン合成に関わるホスファチジルセリンシンターゼをコードする遺伝子pssAの各々上流制御領域とlacZとの転写融合体を構築し、培養環境の両遺伝子転写発現への影響を主に生育時期と温度について調べた。両酵素遺伝子の転写発現共高温(42℃)で発現が著しく低下した。さらに酸性リン脂質合成に関わるpgsA遺伝子の転写発現は対数生育期で極大脂質合成欠損変異株の生育の致死性の抑制または遺伝子の転写発現の抑制を回復する変異株が分離され、flhD転写発現については抑制領域も特定された。共通の膜リン脂質または膜リン脂質欠損の関わる転写シグナルがリン脂質合成遺伝子の環境要因による発現制御と特定の遺伝子の転写発現制御が特定の制御領域で関わっていると考えられる。今まで対応関係がほとんど不明であった膜リン脂質と遺伝子の転写発現制御との関係の分子・遺伝子レベルでの解明の基礎となる重要な知見が得られた考えられる。
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[Publications] 井上晃一,松崎 博等: "大腸菌における遺伝子発現のリン脂質を介する制御について" 脂質生化学研究. 39. 235-238 (1997)
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[Publications] Inoue,K.,Matsuzaki,H.et al.: "Unbalanced membrane phospholipid compositions affect transcriptional expression of certain reguratory genes in Escherichia coli." Journal of Bacteriology. 179. 2869-2878 (1997)
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[Publications] Matsumoto,K.,Matsuzaki,H.et al.: "Cloning,sequencing and disruption in Bacillus subtilis psd gene coding for phosphatidylserine decarboxylase." Journal of Bacteriology. 180. 100-106 (1998)
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[Publications] Inoue,K.,Matsuzaki,H.et al.: "Supperssoin of the lethal effect of acid-phospholipid deficiency in Escherichia coli by Bacillus subtilis chromosomal locus ypoP." Biosci.Biotech.Biochem.62. 540-545 (1998)