Research Abstract |
唾液分泌が減少するとヒトは口腔内の乾燥感を覚え飲水行動を行う。多飲・多尿を呈し,腎臓には大きな異常は認められない遺伝性多飲マウスマウス(STR/N)は,飲水行動を調べるうえで都合のよいモデル動物である.このマウスと,ICRマウスを用い,以下の結果を得た.STR/Nはエサを与えないと極端に水を飲まなくなり,また,水を与えないとエサをほとん食べなくなった.麻酔下に,ピロカルピン腹腔内投与で誘発される唾液分泌量および唾液浸透圧を調べると,正常ICRマウスに較べ,唾液分泌量は少なく,唾液浸透圧は高かいことがわかった.また,血漿浸透圧も高かった.次に,正常な飲水行動を示すICRマウスの唾液腺を摘出し,飲水行動を観察した.摂食に伴う飲水は増えたが,絶水刺激やNaCl浸透圧負荷による飲水量は正常マウスに較べて有意に低かった.唾液腺を摘出マウスでは,なんらかの原因で,口褐感が減少しているか,あるいは抑制されているものと考えられる.摂食に伴う飲水量を,STR/Nと唾液腺を摘出したICRと比較してみると,STR/Nが有意に低かった.STR/Nの唾液分泌量は少ないが,摂食に困難をきたすほどの分泌量の少なさではないようである.エサは摂取され,消化吸収されると血漿浸透圧を亢進する方向に働く.STR/Nの血漿浸透圧は高いことから,Na等の排泄機構に異常があるのかもしれない.そのため,STR/Nでは,エサの摂取時以外の時間にも,多量の飲水が認められたのであろう.以上のことより,遺伝性多飲マウスが多飲を示す原因のひとつとして,高浸透圧の唾液を僅かに出すため,口腔内の口褐感を覚え飲水行動を示すのではないかと考えられる.これには,高血漿浸透圧による唾液腺への直接効果,あるいは脳内,特に視床下部に存在する浸透圧受容器を刺激し,視床下部・唾液分泌中枢を介して間接的に唾液分泌を減少させている可能性がある.
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