Research Abstract |
スナネズミ一過性前脳虚血モデルで,虚血後から開始する脳低温法のニューロン蘇生効果について詳細に分析した。虚血処置として,1%ハロセン維持麻酔下に脳温および直腸温を37℃に維持し,5分間の両側総頸動脈の血流遮断を行った。線条体内に刺入固定したトランスミッターによるテレメトリーシステムを用い脳温を測定し,体表面への水散布と環境温度の自動制御により目的の低脳温を維持した。虚血7,30日後に,残存する海馬CA1錐体細胞数を計測し,単純虚血群を対照としニューロン蘇生効果を評価した。 虚血1時間後より32℃の低脳温を開始し12時間後まで維持すると,有意なニューロン蘇生効果が認められ始め,24時間後まで延長すると90%以上のニューロンが残存した。5時間の短時間の低脳温では,虚血7日後に観察される有意なニューロン蘇生効果が一時的で,慢性期にニューロン死発生を認めた。低温開始時期を次第に送らせ,虚血24時間後まで32℃の低脳温処置を施すと,6時間後からの低脳温開始では,もはやニューロン蘇生効果が観察されなかった。しかし,6時間後から低脳温を開始しても,持続時間を24,48時間と延長させると残存ニューロン数が明らかに増加した。48時間の持続時間では,低温開始を9時間後まで遅らせても50%程度のニューロンが残存した。低温の程度としては,わずか1〜2℃の低温でも約30%のニューロンが生存し,35℃以下では顕著なニューロン蘇生効果が観察された。 虚血後の海馬ミクログリアの増殖活性化をレクチン染色で経時的に観察すると,単純虚血群では6時間後よりミクログリアの増殖が始まり,次第に増強し,4日後がピークであった。虚血1時間後より32℃,24時間の長時間低脳温処置群では,ミクログリアの増殖活性化が1日後より観察されるが,それ以降ほとんど増殖しなかった。一方,虚血1時間後より32℃,5時間の短時間低脳温処置群では,7日後にはミクログリアの甚だしい増殖活性化を認めた。 スナネズミ脳虚血モデルでは、ニューロン死発生の過程で可逆的な細胞内事象が少なくとも虚血再灌流5時間後まで続いており,低脳温のニューロン蘇生作用機序の一つとしてミクログリアの増殖活性化の抑制作用の可能性が示唆された。
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