Research Abstract |
ヒトの歯の寿命はおよそ50年であることから,高齢者の多くは義歯による咀嚼を余儀なくされる.義歯装着者の咀嚼効率については,歯学領域で多数のデータが集積されているが,義歯装着者が食品の固有のテクスチャーに対してどのような咀嚼運動を行い,どのような食感を得ているのかについては,全く明らかにされていない.そこで本研究は,テクスチャーの異なるモデル食品を咀嚼する際の咀嚼運動をX線映画法によって記録し,義歯装着者に特有の咀嚼運動様式を解明することにより,義歯装着者にとって咀嚼しやすい食品のデザインを目指す. 本年度は,義歯装着者の咀嚼運動様式を解明するためのモデル食品として,X線造影剤を添加した寒天ゲルとゼラチンゲルを試作し,それらのテクスチャーパラメータを測定した.その結果,造影剤添加の寒天ゲルとゼラチンゲルは,両者ともゲル化剤の濃度に依存して硬さが直線的に増加すること,同一の硬さであればゼラチンゲルの方が破断歪が大きいことなどを確認した.次に,これらのモデル食品を健常者に咀嚼させたX線援護撮影を行い,硬さの増加に伴う咀嚼運動様式の変化を観察した.その結果,柔らかいモデル食品の場合には,舌と硬口蓋による圧縮で粉砕を行い,口腔後方部へと移送して嚥下するが,硬いモデル食品の場合には,歯列部に移送した後,咬断によって粉砕し,口腔後方部へと移送して嚥下することが判明した.以上の結果より,ヒトは,摂取した食品のテクスチャー(硬さ)に応じて咀嚼運動様式を変化させていることが明らかとなった.なお,圧縮による粉砕から咬断による粉砕へと咀嚼運動を変化させる硬さの閾値は,150〜200g/cm^2であった. 次年度は,同様のモデル食品を義歯装着者に咀嚼させたX線映画撮影を行うことにより,義歯装着者の咀嚼運動様式が健常者とどのような点で異なるかを明確にし,義歯装着者向けの易咀嚼性食品のデザインを行う.
|