1998 Fiscal Year Annual Research Report
イスラーム諸国における西欧近代科学受容問題の歴史的考察
Project/Area Number |
09680069
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Research Institution | KOBE UNIVERSITY |
Principal Investigator |
三浦 伸夫 神戸大学, 国際文化学部, 教授 (20219588)
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Keywords | ナスル / クルアーン / イスラーム |
Research Abstract |
1970年代になってOPECの成立やイラン革命によって,ムスリム達はアイデンティティを求めて歴史を研究するようになった.こうして,過去に興隆した自分たちの科学と今日の現状とのギャップを認識するようになり,さらに,世俗的西欧科学によってイスラーム世界に危機が訪れていると認識するようになった.イスラームと現代科学の問題に関しては今日多くの論者が議論している.本研究は,それを4つの個人で代表させ,さらにそのうち第1の論者の主張に関してとりわけ詳細に調査した.以下はその4人とその主張である. 1. ナスル.イラン出身の最も多作で広範に知られた文明批判家.その出自や受けた教育から主張は多分にイラン的,グノーシス主義的ではあるが,今日の西欧科学における諸問題の解決のため,本来のイスラーム的伝統に立ち戻ることを主張する. 2. ビュケイユ.ベストセラー『聖書,クルアーン,そして科学』の著者であり高名なフランス人医師.クルアーンにはすでに現代科学の諸成果が記述され,したがって科学者はクルアーン真摯に解読せねばならないと主張する.サウジアラビアなどが重視している見解である. 3. サルダル.英国で活躍するジャーナリスト.中世のイスラームにおける科学の発展は当時の思想の多様性によるとし,思想の多様性こそ今日の西欧科学の諸問題を解決できるとする.こうしてイスラームに基づく規範をいくつか挙げている.彼の思想はたとえばマレーシアで採用されている. 4. ファールーキー.科学のイスラーム化さらには知識のイスラーム化というラジカルな方向をめざし,とりわけ若年層へのイスラーム教育を重視する.今日米国に研究所を創設し,多くの宣伝活動を行っている. 以上の4者は立場は異なるとしても,今日のイスラーム世界の危機を認識し,イスラームにおけるタウヒードを現代西欧科学からどのように守るかを議論している.
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