1997 Fiscal Year Annual Research Report
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09710012
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Research Institution | Kyushu Ryukoku Junior College |
Principal Investigator |
山部 能宜 九州龍谷短期大学, 仏教科, 助教授 (40222377)
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Keywords | 観仏三昧海経 / 観無量寿経 / 禅経 / シルクロード / トゥルファン / 禅定窟 / 初期密教 / Yogalehrbuch |
Research Abstract |
本年度は,以下の二点につき研究を行った. (1)トゥルファン地域のトヨク第42窟と20窟には,明らかに観想中の僧を描いたと思われる壁画が多く残されている.これらの壁画は,その内容及び題記によって,観仏経典類と密接な関係にあったことが明らかである.しかしながら,奇妙なことに,個々の要素はこれら観仏経典類と密接に関係しているのに,全体的な構成はどの文献とも符合せず,また個々の壁画のなかにも種々未整理な要素が見られるのである.このような点から判断すると,これらの壁画は,個々の観仏経典の伝承がまだ充分確立されていない状態を反映しているのではないかと思われる.観仏経典は,完成された聖典として他の地域から導入されたのではなく,むしろこの地域の行者達の生の実践を反映しつつ,現地の仏教者たちにより形成されたのではなかっただろうか. (2)キジルより発見された梵文禅定マニュアルは,『観仏三昧海経』を初めとする観仏経典群と多くの特異な密教的要素を共有する.言語的観点からはこれらの経典は明らかに中国文化圏で撰述されたいわゆる疑経であって,梵文原典からの翻訳であるとは考えられない.そのような文献が梵文文献と共通性を有するということは注目すべきことである.しかも,この梵文禅定マニュアルは漢訳されておらず,また密教が組織的に中国に伝えられるのはこれら観仏経典の成立よりはかなり後のことであるから,観仏経典がこれらの要素を,先だって漢訳された密教経典から導入したとも考え難いのである.そのようなことを考え合わせるならば,観仏経典の少なくとも幾つかのものはインドで展開しつつあった初期密教的要素と何らかの形での直接的接触のもとに形成された可能性が大きいのであり,その接触点は中央アジアではなかったかと思われるのである.
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