Research Abstract |
本研究は,従来単一の経験によって構成されると仮定されてきた大きさ知覚について(e.g.,Koffka,1935),疑似自然観察状況における心理学実験と,統計解析の手法の両方を用いて,検討することを目的としたものである.本年度において,予備的観察と,仮説検証実験の両方が行われ,得られたデータについて,偏相関分析をもとにした因果解析の手法による統計的解析が行われた. Rock and McDermott(1964)によって検討された視角の知覚実験の追検討など,いくつかの予備的観察を行った後に,仮説検証実験が行われた.本実験では,大きさ知覚は単一の経験で構成されるのではないというMcCready(1985,1986)の仮説を検証した.McCready(1985,1986)は,大きさ知覚はみえのリニアな大きさと,みえの視角という2つの異なった知覚から構成され,みえのリニアな大きさとみえの距離の比は標準的なSDIHに示されるような幾何学的視角ではなく,みえの視覚に不変の関数であるとした.垂直に提示された木の棒を刺激対象とし,両眼視・単眼視の観察条件(2)×刺激の物理的長さ(3)×提示距離(3)の18条件を設定した.それぞれの条件について観察者は,みえのリニアな大きさ,みえの視角,みえの距離を産出法によって報告した.11名の被験者の結果から,みえの視角は幾何学的視角に比べてどちらの観察条件においても過大評価された.またみえのリニアな大きさとみえの距離の比は,みえの視角よりも幾何学的視角に適合する程度が高く,本実験結果はMcCready仮説に比べて,一般的なSDIH(e.g.Foley,1968)に従う傾向が高かった.偏相関をもとにした因果解析の結果から,みえのリニアな大きさとみえの視角は幾何学的視角に直接的に規定される関係が推定された.これらの結果から,McCready(1985,1986)の仮説のように,大きさ知覚は2種の異なった経験から構成される可能性が推定された.ただしみえのリニアな大きさとみえの距離比は,みえの視角の関数であるという仮説に関しては,適合の程度が低かったと推定された.
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