Research Abstract |
平成10年度には,値段検査を用いて,アルツハイマー型痴呆(DAT)患者の現実認識は,逆向健忘の進行と関連し,病期の進行にともない,過去に遡っていくことが明らかにされた。本年度は,日常の状況の会話を通じて,DAT患者の現実認識や回想の特徴について調べることを目的とした。フィールドワークの方法をとり,特定のグループホーム内で,70〜90歳台の8人の(女性6名,男性2名:軽度1名,中度4名,重度3名)と一定時間(食事等を含む半日×10日間)を過ごした。いくつかの集団場面における会話をテープレコーダで記録し,それらの分析を行った。 その結果,まず,たとえ職員であって,毎日過ごしている特定の職員以外は,名前や何をしている者なのかがわからないことが明らかにされた。グループホームについて,その場の正しい現実認識をもっている者は8名中,3名のみであり,残りの者は「旅館」 「自分の家」 「警備にやとわれて来ている」と,各個人ごとに現実認識が異なっていた。それらは,例えば「リビングルーム」から「食堂」へのように,ある場面から異なる場面に移動する場合や時間的な隔たりによって,個人内であっても現実認識が度々変化した。また,より重度の患者の場合には,誤った現実認識が固定し,変化しないことが明らがにされた。痴呆患者の場面ごとの現実認識の生成は,それぞれの文脈が結びつかないことが関与していると考えられるが,それらが,どのような経緯をへて,固定される段階まで至るのか今後検討していくべきであろう。また,日常場面における自発的な回想はほとんどみられなかったが,現在を過去を取り違えた状況認識はよくみられた。このように,個々の患者で現実認識は異なるため,集団場面では,特に職員の心理学的な介入が必要とされることが明らかにされた。
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