1997 Fiscal Year Annual Research Report
大学のマス化段階における大学生の読書行動の変容についての実証的研究
Project/Area Number |
09710183
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
山口 健二 岡山大学, 教育学部, 講師 (90273424)
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Keywords | 大学生文化 / 教養主義 / 読書文化 |
Research Abstract |
本研究は、1960年代から1980年代にかけての大学生の読書行動の変遷過程を把握することを主眼としたものである。この時期の大学生の読書行動についての通説としては、大衆化という側面から論じられるものがほとんどである。すなわち、かつて「読書人」としてのアイデンティティを強く保持していた大学生が、次第に「かたい本」を読まなくなる、とするものである。 しかしながら、大学生の読書行動の大衆化がリニアに進行したものとは必ずしもいえない。これは種々の大学の学生部調査などを検討して明らかとなったことである。例えば、京都大学の学生部調査が学生の書籍費を継続的に調査しているが、そのデータを細かに検討すれば、学生の書籍費は、1960年代から1970年代にかけてむしろ増加の傾向にあることが見て取れる。書籍費の減少傾向があらわれるのは、1980年代半ばからである。また、朝日新聞社の読書社会調査によれば、1960年代の大学生の読書意欲は一般社会人の読書意欲よりもむしろ高い。 振り返って見れは、1950年代から1960年代にかけての時期というのは、角川書店などを筆頭に、「教養書」の大量廉価販売(文庫戦略)が積極的に行われた時期であり、出版社側のその面での収益も決して低くない。この時期の出版商業主義は「教養主義」と決して矛盾するものではなく、むしろ「教養主義」の普及を下支えするものとすらいえる。こうした時代背景のもとで、大学生の読書意欲が高まっていくことはむしろ自然であるとみてもよい。高度経済成長は、「大学生らしい読書」をむしろ推進した面もあるのである。 こうした知見を確認するために、京都大学と東京工業大学の卒業生に大学時代の読書についての回顧調査を実施した。本年度は、そのデータの解析に取り組む予定である。
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