1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09710239
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中島 圭一 東京大学, 資料編さん所, 助手 (50251476)
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Keywords | 中世 / 日本 / 経済 / 貨幣 / 銭 |
Research Abstract |
1 中世の古文書・古記録・文学・思想的著作等の調査を行った。その中で、16世紀初期の京都で嘉定通宝という南宋銭が珍重されていたという興味深い事実が検出され、16世紀中期以降の永楽銭・洪武銭など特定銭種の基準貨幣化の先蹤として注目される。また今年度は特に未撮影・未翻刻史料の収集に努め、近畿地方の近江湖東地域・南山城地域、九州の佐賀平野周辺などに重点を置いて、室町・戦国期文書の調査・撮影を実施した。 2 出土銭や鋳造関連遺跡の情報収集・調査を進めた。特に最近、15世紀末期の堺の貿易商人が大量の銭貨を琉球に持ち込んでいた事実が紹介されたことから、沖縄の遺跡に注目して現地調査を行ったところ、当該地域においては数千枚を超える大規模一括銭の出土が未だなく、何人かの発掘担当者から聞いた限りでは、将来発見される可能性も低いという意見が強かったのが印象的であった。なぜ琉球では銭貨埋蔵が少ないのか、また逆になぜ中世日本では数万〜数十万規模のものまであるのか、その社会的あるいは文化的な意味・背景を対比的に突き詰めていくことが、今後の課題として浮上した。出土銭としては他に信濃や四国地方の主要なものを実見し、また博多・京都などの銭貨鋳造遺跡については、その中世における地理的位置を意識しつつ調査を行った結果、いずれも住人の多い都市的景観の中で、意外に大っぴらに銭貨私鋳が行われていた可能性が見出された。 3 考古資料と文献史料とを連関させながら、中世貨幣の実像を捉え直してみた。その成果の一部は、中世国家の貨幣に対する姿勢に注目しつつまとめたほか、中世経済に関する書評の中でも言及した。と同時に、1の嘉定通宝が珍重された理由や2で触れた諸点など、今後究明すべき課題も明らかになった。
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