1997 Fiscal Year Annual Research Report
Stog Palace写本とTokyo写本を用いたチベット典籍の史的系統調査
Project/Area Number |
09710255
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 隆泰 東京大学, 東洋文化研究所, 助手 (20282709)
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Keywords | Stog Palace写本 / Tokyo写本 / チベット大蔵経 |
Research Abstract |
チベット大蔵経のうち西の系統に属するStog Palace写本とTokyo写本を,東の系統に属するPeking版,Narthang版,及び漢訳を参照しつつ,複数の典籍に渡って比較対照調査した結果,以下のことが明らかとなった. (1)従来報告されていた通り、Stog Place写本とTokyo写本との読みが一致して,東系統とは異なるという一般的傾向が顕著に現れている. (2)Stog Palace写本とTokyo写本の読みが異る箇所では,従来はStog Palace写本の方が東系統に一致するという報告がされていたが,今後の調査ではそのような傾向は見られなかった. (3)Stog Palace写本とTokyo写本と比較して,安易な誤写・誤記が多い.このことはTokyo写本の方が複数のソースを参照して誤写・誤記を防いだことの傍証となりうる. (4)Stog Palace写本の読みが他のどの版本・写本とも異り,唯一漢訳のみと一致する箇所が存在する.漢訳の歴史性とチベット訳の忠実性に鑑みたとき,Stog Palace写本の読みこそ「本来の正しい文」であると考えられる. 従来,チベット訳はサンスクリット原典の直訳,漢訳は意訳と言われてきた.そのため,チベット文と漢文が相違する場合,チベット文をもって「本来の正しい文」と定める気風が学会には根強い.しかしその判定は,信用できるチベット版本・写本の全てにあたってみた上でなければ下せないはずである.従来のようにStog Palace等の写本を用いない研究では,「本来の正しい文」を見失ってしまうおそれのあることが本研究を通じて明らかとなった.今後もチベット写本の研究を継続し,注意を喚起していきたい.
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