1997 Fiscal Year Annual Research Report
ハプスブルク帝国の近代化と地方社会〜ダルマチアを中心に〜
Project/Area Number |
09710264
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石田 信一 筑波大学, 歴史・人類学系, 講師 (80282284)
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Keywords | ハプスブルク帝国 / オーストリア / ダルマチア / 近代化 / ナショナリズム |
Research Abstract |
ハプスブルク帝国における国家(=中央)と地方の関係を、法的・制度的地位と実際面での政治的・経済的関係の両面から再検討し、以下の諸点を明らかにした。 この帝国はハプスブルク帝国を共通の君主として戴く諸王国・諸領邦の緩い連合体であり、各地方は各々の伝統に従った広範な自治的権限を保持していた。しかし、18世紀に始まる近代化の流れの中で、政府は中央集権化を志向し、各地方の自治的権限を制限しようと試みた。とくに革命運動が沈静化した1850年代には、そうした試みが一定の成果をおさめ、地方行政制度の統一が実現したが、永続的なものとはならなかった。 一方、各地方は一貫して中央集権化に反対し、自らの自治的権限の保持・拡大のために帝国の連邦国家として再編を志向していた。各地方は言語的・民族的にも異質であったから、各地方の動きは同時に排他的なナショナリズムを喚起した。帝国の細分化によって成立するであろう新たな国民国家の母体となるべく、それぞれの地方ごとに文化的・政治的活動が繰り広げられたのである。 典型的な多民族国家であるハプスブルク帝国にとって、こうした動きは致命的なものとなった。伝統的社会では階級的差異が決定的であり民族的差異は重視されなかったが、近代化の過程でその関係は逆転した。それは多民族の平和的共存の伝統を脅かすものであった。近代化は地方社会を民族的に統合する一方で、各地方・各民族間に不和をもたらし、国家としての一体化、その成員を包括する「国民」の形成を大きく阻害したといえる。 こうした枠組みにおいて、今後は帝国の一地方としてダルマチアの事例を取り上げ、近代化が地方社会にもたらした影響、そして国家(=中央)と地方の関係の変容の具体的な分析を行なう。
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Research Products
(1 results)