1997 Fiscal Year Annual Research Report
昭和モダニズム期以降の日本近代文学が描き出す都市像と感性
Project/Area Number |
09710310
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
石田 仁志 東京都立大学, 人文学部, 助手 (80232312)
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Keywords | モダニズム文学 / 都市文学 |
Research Abstract |
本研究は平成8年度に行った研究(奨励研究)の延長線上に位置づけることができる。本課題において対象とした文芸雑誌は『文章倶楽部』(大正5年5月〜昭和4年4月)、『マヴォ』(大正13年7月〜同14年8月)、『行動』(昭和8年10月〜同10年9月)の三誌である。この三誌は各年代の特色を示していて興味深い結果が得られた。『文章倶楽部』の場合は啓蒙的投書雑誌ということから文壇事情を解説したものや作家の生活ぶりを戯画化した漫画などが多く登場し、「作家」という存在を通して都市生活の一面を読者に提示してくる。それは同時にこの時代の文芸メディアにおける言説空間の変容を如実に示しており、当時の人々が都市や文芸に抱いていた欲望や憧憬が「生活」という形で明確に表現を獲得していくことを表していた。『マヴォ』はダダイズムや構成主義を標榜しているだけに描出される空間は非常に断片化されており、それらの表現によって既成の価値観を否定して流動化を現出している。その感性のあり方の特色は機械主義への肯定と暴力的なまでのエネルギーの放出を美化する傾向が強い。空間表現としては都市的なものと農村的なものが併存し、感性的には断片化された空間に対する虚無感・不安感といった側面を指摘できる。『行動』の場合は都市像としての明確な空間表現は急速に減少している。それがモダニズムの終息を意味するのか、あるいは都市生活が自明なものとして後景化していく現れと見るかは現段階では判断しがたい。しかし、大陸への日本の植民地化の動きが明確になってくる時代にあって、「都市」のイメージに非西欧的な要素を見ようとする姿勢が現れてくることを予想させるものがある。今後は来年度に取り上げる予定の昭和十年代の雑誌の分析を通して、本課題の総合的な成果を結実させる必要がある。
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