1998 Fiscal Year Annual Research Report
昭和モダニズム期以降の日本近代文学が描き出す都市像と感性
Project/Area Number |
09710310
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
石田 仁志 東洋大学, 文学部, 講師 (80232312)
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Keywords | モダニズム文学 / 都市文学 |
Research Abstract |
本年度は当研究課題の終了年度にあたるが、当初予定していた『ナップ』『日本浪漫派』は人手できなかったため、分析対象雑誌を『文芸通信』『文学界』とし、ほかに叢書の「新鋭文学叢書」(昭和5年7月〜6年3月、改造社)全28冊を分析対象として取り上げた。「新鋭文学叢書」は龍膽寺雄、堀辰雄、片岡鉄兵、中野重治、林房雄、藤沢桓夫など、昭和モダニズム文学を支えた作家・作品を数多く含む叢書で、データとしては多くの事例を収集できた。個々の作家によって都市空間と感性表現の関係は異なるが、全体的な傾向としては都市社会の発展の中で都市化現象を単に皮相な風俗現象として促えるのではなく、そこに生きる人間の根本的な感情を生み出し、突き動かしていくものとして択えようとしている。しかし一方で中野重治や窪川いね子、黒島伝治らの作品では資本主義社会の歪みをそこに見ることが出来るものとして都市化に批判的である。そうした傾向はモダニズム期以降の反動的な日本文化への賛美の傾向とストレートに繋がるものではなくても、一脈通じるものを示している。『文学界』は当時は同人誌に過ぎなかったが、その文壇的な位置はむしろ中心をなしており、都市空間表現は多種多様な形で頻出している。それに伴う感性表現も昭和初期の享楽的なものから比較するとかなり屈折したものが多く見られる。『文芸通信』は文壇ゴシップ記事や随筆を中心とした小雑誌であるために当時の作家の生の声を聞き取ることが出来、とくに当時の芥川賞受賞作に対するアンケートや評判、あるいは日本浪漫派、純粋小説論、行動主義文学などの文芸思潮に対する評価などを通して、作家たちが昭和十年代というものをどのように受け止めようとしていたかが概観でき、それは次第に都市空間に対して人々の視点のあり方が変容していくこととパラレルな関係にあるものとして受け止めることが出来る。
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