1997 Fiscal Year Annual Research Report
近代小説の中の西洋東洋文化に対する日本の自己位置設定の語り
Project/Area Number |
09710320
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Research Institution | Aoyama Gakuin Women's Junior College |
Principal Investigator |
佐藤 泉 青山学院女子短期大学, 国文学科, 専任講師 (80279637)
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Keywords | 日本文化論 / 文学史 / ジャンル / 教科書 / 国語 / 冒険小説 |
Research Abstract |
文学作品、評論、文学史等の多様な言説は、文学的価値じたいを形成する一方で、日本文化の確認の語りとしても機能して来た。文化の語りのうちで、文学的言説はどのような役割を果たしたか。9年度は次の項目を立てて資料収集を行った。 (1)近代文学史の記述 近代文学史の叙述は、日本の文化的同一性との関連で作家、作品、文学思潮をどのように序列化してきたか。個人著述の文学史については最終的に個々の文学史家の史観が問われることになるため、それらを再構成して公式の歴史を構成している戦後の文部省検定高等学校国語教科書を調査した。西洋近代小説の強い影響下に成立しかつ日本的に歪められたとされる[自然主義]から特殊日本的とされる[私小説]への系譜はいつ形成され、どのように位置づけられてきたか。また近代文学史のなかで常に特権的な扱いを受けている森鴎外、夏目漱石の意味付けはどのように変化してきたか等に着目しつつ、教材化された作品、その方向づけ、文学史的位置付けを分析するとともに、狭義の文学作品以外で日本文化を語っている教材との関連をとらえ文化の語りの全体的な構成を考察した。 (2)文学的言説におけるアジアの位置付け 西欧文学の影響下に始まったとされる日本近代文学の主潮流はアジアに興味をしめさないが、明治初期の政治小説や後に少年向けとされる冒険小説等、文学史的秩序の野中で周延的なジャンルには、東アジア、東南アジアへの注目がある。こうした文学作品にみられる海外雄飛思想は、海外移民の問題、アジア主義の言説等、文学以外の政治経済的領域の言説と連動し興味深い言説領域を形成している。明治中期から大正期の[探検世界][冒険世界]初期の[新青年]などの雑誌を調査し、また押川春浪らの冒険小説ジャンルをその受容者側に着目しつつ調査した。
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