1997 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09710333
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
由井 哲哉 東京工業大学, 外国語研究教育センター, 講師 (50251335)
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Keywords | ウィンザ-の陽気な女房たち / 市民喜劇 |
Research Abstract |
シェイクスピアの『ウィンザ-の陽気な女房たち』はどの喜劇群にも属さない異色作だと考えられている。もちろん、それには、『ヘンリー四世・二部作』における喜劇的人物フォールスタッフの再登場をエリザベス女王が要請したことから急遽書き上げられのではないかと推測される、創作時の事情も絡んでいる。しかしながら、シェイクスピア作品のほとんどは、外国に舞台を据えるか過去の時代を取り扱っており、また主人公も王侯貴族である場合が多いのに対し、この作品が同時代の英国を舞台とし、しかも登場人物を中産階級市民としている点で、異彩を放っているとも言える。 一方プロットの面からこの作品を眺めると、様々な陰謀の計画が芝居の核を作っており、そうした陰謀によって力と力の衝突が起こる寸前に、別の計略が持ち上がることで衝突が回避されるというパターンが繰り返されている。陰謀の約束が引き延ばされ、解決が後回しにされことで、作品が悲劇につながらずに、喜劇へと傾斜していくのである。 本研究では、歴史劇や外国を舞台とした作品に見られるあからさまな権力の葛藤が、同時代の市民階級を扱ったこの作品の中では、引き延ばし戦略を通じてはっきりとした決着を見ず、その権力構造は曖昧なまま宙吊りにされていることに注目し、そうした特徴をアリストファネス以来の喜劇的類型たるフォールスタッフの考察、当時の放蕩貴族ウィリアム・コンプトンとエリザベス・スペンサーの結婚と作品の関わり、オヴィディウス以来の変容のテーマ、ジェンダーと階級というイデオロギー的問題などに触れながら、異色市民喜劇としての本作品の新たな位置づけを試みようとしたものである。
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Research Products
(1 results)